2月の万葉歌  

2月は何と申しても「椿」です。

坂門(さかとの)人足(ひとたり)  巻1-54 

()()山の つらつら椿 つらつらに見つつ思はな 巨世の春野を

大伴家持 巻19-4152

奥山の 八つ()の椿 つばらかに 今日は暮らさね ますらをの(とも) 

天平勝宝2年(750)の旧暦3月3日の歌。その日、越中の国守館で、上巳(じょうし)の宴。そのうちの1首。

 「奥山の八つ峰の椿」は、「つばらかに(十分に、思い残すことなく)」を導き出す序詞(じょことば)。宴に参加した男たち(ますらおのとも)へ、奥山にたくさん咲いている椿の花のように、今日は宴を楽しんでください、と国守・家持が歌でて呼びかけた。

大伴家持 巻20-4481

あしひきの (やつ)()の椿 つらつらに 見とも飽かめや 植ゑてける君

 

長皇子 巻1-73

(わぎ)妹子(もこ)を 早見浜風 大和なる 吾待つ椿 吹かざるなゆめ

 

天武天皇の第七皇の長皇子の歌。早見浜風は早く吹く浜風の意味、早見は早く見たいの意味、「吾待つ」は浜辺に生えている松と掛けている。「我が妻を早く見たい、松が生い茂る浜を吹きぬける風よ、大和にいて私を待っている椿の所まで吹いて行ってくれ」になる。椿は妻のことを暗喩。

                      徳永圀典記