鳥取木鶏研究会 平成21年2月例会レジメ  徳永圀典  

1.理のある配列の卦

―勢力ができ、人望も集まり、万事順調に進みますと、人々が魅力を感じて、つき随ってくる、あの会社は立派だ、社長もよく修省努力するから業績も非常にあがっておるという具合に、人々は安心してついてくる。そこで、雷地豫(らいちよ)の次に、(たく)(らい)(ずい)の卦をおいております。

これを進めていくと六十四卦の説明になりますが、易はこのように漫然と並べてあるのではなく、その配列には深い意味の内面的連鎖があります。六十四卦を一々やるのは大変だなあと思うのは、漫然と雑駁に見るからでありまして、少し立ち入ってこれを見るといかにも良く出来ております。だから、どれか一つを掴むと、その前後は自然に、理が通っておりますから、そう苦しまなくてもよく理解でき、覚えることもできますので、六十四卦というものは決して面倒なものではありません。 

2.大有(たいゆう)の例

―そこで先程申しましたように、この近鉄で申しますと、幹部社員の皆さんが大有で、謙譲の徳を発揮され、和気藹々に行動して、仕事を企画される。そうすると社員一同が皆さんについてくる。

―そうなると世間も近鉄は立派であると言ってついてくる。本当の行動力、勢力というものは、つまりこれだけの段階が要るわけであります。それを少し集まったら大有だと思って、すぐついてこさせようと考えるのはいけません。反撥をくらったり、とんだ抜け穴、失策があったりするものだということを易学は教えているのであります。 

3.山風(さんぷう)()

―世間の人々がついてくると、又天狗になりやすいものです。然し、この時期が一番勢力も充実し、諸事隆盛に向かうのでありますが、この頃になると必ず虫がつきます。これは個人でも団体でも同じであります。

―そこで、(たく)(らい)(ずい)の次に、木皿に虫がついておるという山風(さんぷう)()の卦をおいております。この時に大事なのは、事を(おさ)める者であります。木につきやすい虫に関連して、事を処理する働きを幹の字で表し、よくす、とか、おさむ、と読み、幹事という語はここから出たのであります。 

抜萃(ばっすい)

―このように内容の連鎖、因果関係を明らかにしますと、易の卦の配列は、容易に覚えられます。処が、単に機械的に学生の受験勉強のようにやりましても、とても覚えられるものではありません。

―また、別の卦の配列を例にとりますと、皆さんが集まって研究し実験される。集まるのですから、(すい)の卦、即ちも澤地萃(たくちすい)がこれであります。本当に物事を推進していこうという時には、やはり有為(うい)有能(ゆうのう)の人材を(あつ)めなければなりません。これが萃という字の意味で、抜萃(ばつすい)するという熟語がありますが、これはエリート、最良のものを、雑然と在るものの中から抜いて(あつ)めるということであります。 

5.地風(ちふう)(しょう)

―人材を抜萃(ばつすい)して仕事を任せますと、仕事の能率はあがり、会社の成績も進歩向上します。その進歩向上を(しょう)と言って、澤地萃(たくちすい)の次に、地風(ちふう)(しょう)の卦をおいております。この卦は、木が次第に成長して、大きくなる形で向上発達を表します。

―処がそういう時に思いがけなく、色んな難問が起こってくる。物事というものは、すらすらといかぬもので、進歩向上すればする程厄介な問題が起こってきます。苦しまなければ、本当の意味の安定確立は出来ません。そこで、地風(ちふう)(しょう)の次に、澤水困(たくすいこん)の卦をおいております。 

6.水風(すいふう)(せい)

―色んな難問題、あるいは行き詰まりに直面して困窮することにより、始めて反省、内省して自己を深めますので、これを井戸を掘るのに譬えて、澤水困(たくすいこん)の次に、水風(すいふう)(せい)の卦をおいております。

―井戸を掘ってある所まで行くと、清水が滾々(こんこん)と湧いてくる。これが(せい)の卦の特徴であります。つまり難問題にぶつかって始めて自分というものを掘り下げ、真理、悟りを得て、新たな活力、自信が湧くのであります。寒泉という言葉がありますが、昔からよく雅号に使われております。これはここから取ったものであります。また書斎にも(かん)(せん)精舎(しょうじゃ)などという有名な名がありますが、何れもこの井の卦から出たものであります。 

7.(たく)()(かく)

―こういう過程を経て、始めて自己改革、或いは政治改革が出来るのであります。そこで水風(すいふう)(せい)の次に、(たく)()(かく)の卦おいております。これは革命の原理、経過を明らかにした卦であります。処が、革は破壊です、古いもの、邪魔なものを破壊するだけで、建設的な意味はありません。

―建設は(かなえ)であります。(かく)(てい)をまって始めて新たな創造となるのであります。つまり革命だけでは駄目で建設しなければなりません。そこで、(たく)()(かく)の次に、火風(かふう)(てい)の卦をおいております。 

8.内面的理法

―こういう風に、易の六十四卦というものは、ただ漫然と並べてあるのではなく、乾坤(けんこん)から始まって内面的に統一した原理原則がありまして、それを(じょう)(きょう)()(きょう)に分けて分類しておるのであります。

―そういう内面的理法というものがわかれば、極く自然に納得し首肯(しゅこう)しながら進むことができるのであります。そういう事を知らないで、単に知識的に理解していこうとしますと、これはとても煩瑣(はんさ)で何ともなりません。 

9.内面的な変化の理法

―こういう内面的な変化の理法というものをよく知って易経をやりますと、実に自然で、痛切に、我々の存在、我々の生活を本当にダイナミックに悟ることの出来る実に生きた学問であります。易学をやりますと、我々人間は、惑う、誤るなどということは無い筈であります。

―そこで昔から、人間が出来てくればくる程、また色々の問題と取り組めば取り組む程、この易の学問に深い魅力と悟りを得ることが出来るのであります。 

10.真理探究の学問

―ここに至ると、易は変わるだけでなく、変える、おさめる、あらためる、等という注釈が成る程と首肯されるのであります。

―世間で通俗に考えておる易などと全く異り、本当に徹底した我々の存在及び生活に関する基本的、本質的な真理探究の学問であることが理解できるのであります。皆さんのような人生体験の豊かな方々には、尽きざる興味を覚えることの出来る学問であります。 

11.易の本義を

―処が、これは非常に難しく取り組み難い。世間の易者の著書を読んでも殆ど雲をつかむようで、その上通俗であります。なるべく早く占うことを覚えて、算木(さんぎ)筮竹(ぜいちく)をもってやってみたい等というたあいもない興味本位では、易学になりません。

―易の本義をよく理解した上で、占うということは改めて研究しなければなりません。本日は、易の本義というものの大事な原理原則をご紹介しまして、第六講を終わることと致します。