320日 深い人格

 彼は不断に誠に就いて余程深い思索と体究とを積んでいた。殊に彼が誠と虚との関係に精到したことは、彼の人格に取って大なる進歩であった。

大抵の人間は、まだ青春の頃は流石に道徳的意欲も鋭敏で、かなり内面的に煩悶もするが次第に世故慣れて来るに随って、その道徳的意識も麻痺して来て、老年には最早全く愚痴な人間に過ぎなくなるのが常である。

然し、彼は苦労を重ね、年を取るに随って又、功勲の高まるに連れて、猶お更その道徳的意識も鋭敏にされた。これは全く心ある人の深く傾倒すべき人格である。

          政治家と実践哲学