諸悪の根源小選挙区と大衆迎合政治

           渡邊恒雄 読売新聞主筆 

日本の国政は、今機能不全状態にある。財政は破綻寸前、いつ国債暴落、金利高騰、本格的不況の泥沼に陥っても不思議はない。

機能不全化の根本原因は「改革」の名の下に作られた小選挙区制にある。

中選挙区が派閥政治の弊害の根源だから、小選挙区制にして派閥を解消し、健全な二大政党制と、民主的な政権交代を実現すれば、政治は万事理想的になる・・という短絡的発想による「夢」の崩壊である。

小選挙区礼讃の前提には、民主主義の先進国・英国も米国も小選挙区だとの主張があった。 

英国は、第二次大戦中は挙国一致の大連立であり、現在は二大政党制が破綻して、保守党と第三党自民党との小連立である。米国は右寄りの「保守」、左よりの「リベラル」両派のゆるやかな連合体であって、党議拘束がゆるく、クロス・ボウティングが許容され、事実上「四党政治」と言われる。これによって個々の議員の信条や良心が発揮されている。 

日本では、軽率に導入された小選挙区制が結果的にもたらしたのは、国家議員が国益より選挙区の地域的利益や、民衆の無知を利用した利益誘導を優先させる大衆迎合政治に堕したことである。民主党の既に破綻したマニフェスト政治は一つの典型である。

自民党も、派閥の弊害打破と称して小選挙区制に乗った。実は、派閥とは次の指導者を育成する機関でもあり、また派閥の長が数人集まって合議すれば党議を迅速に決定できるなどの効用もあったのである。自民党はこうした派閥の機能を否定した結果、卓越したリーダーが育たなくなり全体がパラパラした砂のように分散し党勢は低下を辿った。 

中選挙区制では、有権者の二割をつかめば当選したから、候補者はホンネの政策や理念を語ることが出来た。小選挙区では対抗候補より百票、千票でも多く取るためホンネを隠し、八方美人の迎合政策を弁じねばならないから、候補者は各個の信念も理想も捨てる。これが選挙政治の頽廃を招いた。 

現在の政治の停滞を克服する妙手は小選挙区制の廃止しかない。参議院は全国を九以上のブロックに分けた非拘束名簿式比例代表制とする。衆議院は、三人区を基本とした中選挙区制を復活する。 

望むらくは、新選挙区制度のもとで、自民、民主とも分裂し、思想と政策の近い新しい二大政党に再編成することだ。