大文字山(如意ガ岳) 海抜472 

目に見るはまろき山はふ大文字

   洛外(らくがい)に来てかたはらに添ふ  与謝野晶子 

ここには随分以前に登った記憶がある。薪の区画跡を見た。長さ81米、160米、138米という大きなものだ。聞く処によると山麓にある浄土寺が炎上した時、本尊の阿弥陀如来がこの山の頂に飛び移って大光明を放った。それに因んで精霊送り火を点ずるようになったらしい。大の字は人体を表すという、煩悩を焼き尽くす意味らしい。 

大文字(とも)りそめたる闇深し    谷沢白城 

長田幹彦の祇園という短編の「送り火」を引用する、いかにも京の都を思わせる。 

「ほ、(ねえ)はん、(はよ)う来とうみやす。山の火がともりましたえ」 

その叫び声と一緒に人の足音が床の上に響いて、四方がぼうっと薄明るくなって来る。とみると、ちょうどここから斜めに見える如意ガ嶽の中腹のところに一団の猛火が赤々と燃え上って、みるみるうちに真紅の煙と一緒に上下左右へ炎々と燃え広がってゆく。

いよいよ大文字の送り火がともされたのである。

「まあ、えらい火や、今年はいつもと違うて火の色がきつうおすな」

                         岫雲斎圀典