美智子皇后様のお歌                             
 
現代一流歌人の評ある皇后さまの歌を暦年順に選んでみた。本ホームページに既に掲載したものは除外した。平成173月 徳永圀典

 1

昭和34年、常盤松の御所

黄ばみたるくちなしの落花啄―ついばーみて
椋鳥来鳴く君と住む家

 2

     常盤松の御所

てのひらに君のせましし桑の実のその一粒に重みのありて

 3

 

土の上にいでしばかりの眠り草触れて閉ざしめあ朝遊べり

 4

昭和35みづからの

吾命―あぎのちーを分け持つものと思ひ来し胎児みづからの摂取とふこと

 5

     春空

つばらかに咲きそめし梅仰ぎつつ優しき春の空に真むかふ

 6

     浩宮誕生

含-ふふーむ乳-ちーの真白きにごり溢れいづ子の紅の唇生きて

 7

 

あづかれる宝にも似てあるときは吾子―わこーながらかひな畏れつつ抱く

 8

昭和36年、若

若菜つみし香にそむわが手さし伸べぬ空にあぎとひ吾子はすこやか

 9

     緑

はろけくも海越えて来しさ緑の大谷渡新芽つけたり

10

  東久邇茂子様御舟入の儀

新しき貴-たかーきいのちの歩みここにはじめまさむか御靴まいらす

11

     旅

若き日の旅遠く来ぬ熱帯の海青ひかりブーゲンビリア咲く

12

昭和37年、土

ふと覚めて土の香恋ふる春近き一夜霜葉の散るを聞きつつ

13

     紺青

いづくより満ち来しものか紺青の空埋め春の光のうしほ

14

昭和39

淡雪を庭のかたへに残しつつゆふべほの白く永き春の日

15

昭和40年、鳥

この丘に草萌ゆるとき近みかも土のほぐれにきぎすいこへる

16

     春潮

水平線やはらぎふふみそそぎ来るこの黒潮の海満たすとき

17

昭和41年、秋蚕

真夜こめて秋養蚕―あきごーは繭をつくるらしただかすかなる音のきこゆる

18

昭和42二月堂お水取り

きさらぎの御堂の春の言触―ことぶれーの紙椿はも僧房に咲く

19

昭和43年、蝶

白樺の小枝-さえだーとびくぐ白き蝶ら野辺のいづくに姿ととのふ

20

昭和44年、星

幾光年太古の光いまさして地球は春をととのふる大地

21

新宮殿初の国民参賀に聖上を拝し奉りて

幸むねに仰ぎまつれり大君の新高殿に立たせ給へる

22

夏鶯

高原の夏浅ければうぐひすのあしたの歌に幼きもあり

23

昭和45年、花

にひ草の道にとまどふしばらくをみ声れんげうの花咲くあたり

24

明治神宮御鎮座五十年にあたり

ふり仰ぐかの大空のあさみどりかかる心と思し召しけむ

25

     夏鶯

高原の夏浅ければうぐひすのあしたの歌に幼きもあり

26

     茶の花

茶畑の白き小花のつつましも照り葉のかげり受けて花咲く

27

昭和46年、匂

母宮のみ旅の記事に心なごむにほひやかにも桃咲くあした

28

昭和47年、山

高原の花みだれ咲く山道に人ら親しも呼びかはしつつ

29

昭和48年、子ども

さ庭べに夏むらくさの香りたち星やはらかに子の目におちぬ

30

     野火

たまゆらを古き世の火の色揺れてをちこちの野辺焼かれてあらむ

31

     彼岸桜

枝細み木ぶりやさしく小彼岸の春ひと時を花つけにけり