安岡正篤先生の言葉 平成301月例会 徳永圀典選

 

いかに善く在るか 

 

 ジョーン・М・ケインズ博士には絶筆と言っていい、亡くなる少し前に発表した「わが若き日の信念」という書物がある。その中で彼は、

 It‘s much more important how to be good,rather than how to do good、

いかに善を為すかというよりも、いかに自ら善く在るか、と言うことの方がより大事である。

と言う名言を残している。

 「いかに善く在るか」ということは、即ち「徳」のことであります。「善をなすか」とは「知」「行為」の問題である。つまらぬ人格の者でも寄付したり、出世したりすることはできる。しかし、いくら寄付をしたり出世しても、つまらぬ人間はつまらぬ人間で、かえって富貴によってますます人間を堕落させ、大害をなしかねない。

 富貴貴賤、順風逆境、なにに処しても変わらぬ自分というものが真実である。即ち、人間は「功利」よりも「徳義」が大事だということであります。

 そして人間が「いかに善く在るか」ということを最もよく反映するものは「情」である。パスカル、1633-1662、などは頭の論理に対して、胸の論理、心の論理を打ち出し、感情というものは「心の論理」だと言っている。この情は愛と同じことで、洗練されないと「情緒」になる。情の糸口だから当てにならない。

 然し、これが良心・理性や修行・体験で磨かれていくと、一貫性や普遍性がでてきて「情操」になる。それが一つの全体性を持ってくると「情懐」になり、外に表現されてくると「情致」「情趣」になる。そういう人こそ「how to be good」である。「いかに善く在るか」ということを一番よく反映している人である。