吾、終に得たり 11.  岫雲斎圀典
              
--釈迦の言葉=法句経に挑む
多年に亘り、仏教に就いて大いなる疑問を抱き呻吟してきた私である。それは「仏教は生の哲学」でなくてはならぬと言う私の心からの悲痛な叫びから発したものであった。平成25年6月1日

平成26年4月

1日 297句

ほとけの弟子は つねに よく醒め覚る 昼となく 夜となく 彼らがつねに念ずるは 達磨(まこと)にあり

釈迦の弟子は常に心が冷静である、昼も夜も心の修養を怠らない。

2日 298句

ほとけの弟子は つねに よく醒め覚る 昼となく 夜となく 彼らがつねに念ずるは 聖りのまどいにあり。

釈迦の弟子は常に心がよく醒めている。それは昼夜を問わず自らの修養に思いをはせている。

3日 299句

仏の弟子は つねに よく醒め覚る 昼となく夜となく 彼らがつねに念ずるき 身体(からだ)にあり

釈迦の弟子は常に心がよく醒めている。それは昼夜を問わず自らの身体に思いをはせている。

4日 300句

釈迦の弟子は つねに よく醒め覚る 昼となく 夜となく 彼らの意 つねにたのしむところは 不害(やわらぎ)にあり

釈迦の弟子は常に心がよく醒めている。それは昼夜を問わず他人を害しないことに喜びを見出している。

5日 301句

釈迦の弟子は つねに よく醒め覚る 昼となく 夜となく 彼らの意 つねにたのしむところは 思索にあり。

釈迦の弟子は常に心がよく醒めている。それは昼夜を問わず思索を楽しむことにあり。

6日 302句

出家するはかたく そをたのしむこともかたく 家に住むもかたく また苦しみなり 同輩と共に住むもまた苦 遍歴(たび)にゆくも苦に遭うなり されば巡歴(たび)するなかれ また苦に遇うことなかれ

出家することは難しい。出家の生活も難しく僧庵に住むのは苦である。家も悩ましく同僚との共同生活も苦である。旅に出て乞食きするのも苦に遭遇する、苦にあわないがいい。

7日 303句

(まこと)ありて (いましめ)をそなえ 誉と富とを ()てるもの いかなる ところに赴くも ことごとく ()(ぎょう)せられん。

信と道徳を具備し、名誉財産を併せ持ちなば、その人はいかなる場所でも尊敬されよう。、

8日 304句

善き人は げに雪山(ひまらや)のごとく 遠き国よりも 見ゆるなり 不善人(よからぬひと)は まこと 夜陰(やみ)に 放たれし矢のごとく 近づけばとて 見えがたし。

ヒマラヤの山々のように 善人は遠くからも輝いて見える。悪人は近くでは見えない、闇に放たれた矢のようである。

9日 305句

ひとり坐し ひとり臥し ひとり遊行(ゆぎょう)して うむことなし ひとり自己(おのれ)を ととのえ 林間(このま)にありて 心たのしむ

独り坐し、独り臥し、ただ独り遊行し、たた独り慎みを守り、こうして森の中で静寂を楽しむ。

10日

第二十二品

地獄

306

不実(いつわり)をかたりて 悪処(あしき)に入り 自ら()して 「わ

れは作さず」という これら両者(ふたり)の 賎しき(なりわい)のもののちにひとしく 悪処に入らん

真実ならざるを語る者は地獄に行く、自分がなしておりながら否定する者、これら両者の死後の運命は同じである。二人とも次の運命は賎しい業の人となろう。

11日  307句

多くの人 肩に黄衣(きいろぎ)をまとうとも 悪しき(わざ)をなし 自らを(ととの)うなくば かかる人々 その悪しき業によりて 悪処に(おち)()らん

譬え袈裟をまとつていても、悪い行いをし、自制する心が無ければ地獄に墜ちるであろう。

12日 308句

火焔(ほのお)のごとき ()けたる (くろがね)をくらうとも むしろ 戒を破り 身を慎みなくして 国の施物(ほどこしもの)を 食うことなからん

道徳を守り自制する心のない者は国の施しものを受けるよりは寧ろ火焔のように熱している鉄を食ったほうがましだ。

13日 309句

心なきもの (ひと)(おんな)に 狎れ親しむ 四つのわざわい 生ずべし わざわいと こころ安からぬ眠りと 第三にそしりと 第四に地獄にゆくことなり

他人の妻に溺れ楽しむ、その反省の無い人にし四つの不幸が生ずる。他人に害悪を与える、不眠、世間の非難、そして心の地獄である。

14日 310句

邪淫の人は あしき名を得 おもむくところ 悪処なり (ひと)の婦と(たのし)むなかれ (おそ)れつつ たのしむは 何のよろこびぞ さらに王は 重罰を加うなり

他人の妻と淫するは害悪である。彼は地獄に生まれる。恐れながら他人の妻と淫するは本物にあらず。重罰を得るであろう。

15日 311句

執ること つたなければ 萱草(かやくさ)に 手をきるがごとく 沙門の(みち)も これを行うに よろしきを得ざれば 地獄にみつびくなり

草の掴み方が悪いと手が切られるように修行者も行いが悪いと地獄に落ちる。

16日 312句

その行い つつしみなく その(いま)(しめ) みだれ こころためらいつつ たとえ()(よき)をなすとも ともにこれ 大いなる報をば得ず

行いが怠惰で戒律を乱し、正しい行いに逡巡があれば大いなる果報をもたらさない。

17日 313句

まさに ()すべきことは これを 力づよくなしおえよ 心なき出家者は むしろ 多くこの世に (わざわい)を散ず

これこそ正になすべきことである。勇敢にやれ、なぜなれば勤しまない修行者は却って多く害悪を散らすからだ。

18日 314句

あしき(おこない)は ()さざるをよしとす そは のちに悩むべければなり 善き行こそは なすをよしとす これすなわち 悔いなければなり

悪い行いをしないこと、悪い行いは後で後悔する。善い行いは善いことだ、後に苦しみがないからだ。

19日 315句

(くに)(ざかい)の域は 内も外も共に かたく守らる かくのごとく 自己(おのれ)をまもるべし 瞬時(またたき)もゆるがせにせざれ さなくば 悪処に至りて うれいかなしまん

辺地の区域は内外の守りを固くするように自分自身も守らねばならぬ。瞬時も油断してはならぬ。瞬時の怠慢で地獄に墜ちるであろう。

20日 316句

はずべからざるに 恥じて はずべきに 恥ずるなき かかる(よこしま)(おもい)に (じゃく)せる衆生(ひと)は わざわいの(みち)に おもむくなり

恥じてはならぬ事に恥じ、恥じなくてよい事に恥じない、これらの人々は間違いで地獄に墜ちる。

21日  317句

おそれなきに おそれを見 おそるべきところに おそれを見るなき かかる(よこしま)(おもい)に (ちゃく)せる衆生(ひと)は わざわいの(みち)に おもむくなり

恐れね必要もない事に恐れ、恐れるものに恐れない。この間違いの道を進めば地獄に墜ちる。

22日 318句

避くべからざるに さくべしとおもい さくべきに さくべからざると見る かかる邪の見に 執念き衆生は わざわいの途に おもむくなり

間違いがないのに間違いと捉え、過ちを無いと思う誤謬を持つ人々は地獄に行く。

23日 219句

そして、そうした古墳から出土する色々な遺物をもって古墳時代の文化を考えていくのが、今日、考古学における一つの大きな流れになっています。

24日

第二十三品

(ぞう)

320句

射られたる()を忍ぶ 戦場の象の如く われはひとの そしりを忍ばん 大衆(よのひと)はげに 戒をもたざればなり

戦場で象が射られた矢を堪えるように私も世間の誹謗を忍ぶ。なぜなら多くの人々は道徳を行っていないからだ。

25日 321句

よく調(てなづ)けられたる象は 戦場に ひき往かる 王は かかる 調()れたる象にこそ 乗るなり さればかの象のごとく 世のそしりを忍び 自らを(おさ)たる者こそ 人中(にんちゅう)の第一なり

王様はよく訓練した象を戦場に連れて行く。自分を制し、人の誹謗を耐え忍ぶ人こそ最上の人間である。

26日 322句

馴らされたる ロバは善く 辛頭(しんどう)の 良馬もよし 大きなる牙をもつ 象もよろしく 自己をととのえたる者は さらによし

訓練されたロバ、しんどう地方の良馬もよい、力ある象もまたいい。しかし、己を制御できる人はさらにいい。

27日 323句

ただこれらの 乗物に由りてのみ 未到(さとり)の境地には いたることなし ただつつしみある人は おのれ自らを 調うるによりてのみ 彼岸には至らん

ただ、これらの乗物では到底彼岸?精神的自在-と申すべき「行く能わざる世界」には到達できない。自分がよく馴れた乗物に乗るように自らを自制してこそその境地に到達できる。

28日 324句

ダナパーラカと 名づくる象ははげしく狂いては (ととの)えがたきも (なわ)につきては (かて)をとることなし 象はただ己れのすむ 林わしたえばなり

ダナパーラカと言う名の象は、発狂して調整しがたいけれども、もしその象を捕縛すると一口も食べない。ただ象の林を恋いしたっている。

29日 325句

睡眠(ねむり)をこのみ 食をとること 飽くることなく うちまろびつつ()ね こころおこたる ()鈍者(ろかびと)は ()()に肥えたる 大豚(ぶた)のごとく しばしば()(よい)に入る

怠け者であるばかりか飽くまで食う、ただ寝るばかりかゴロゴロ過している愚者は、ちようど穀物で養われている豚の如く転生し続け悩み多い輪廻(りんね)が続く。

30日 326句

この心 さきには その望みにまかせ 欲にしたがい たのしみにそいて さすらい往けり されど今日こそ われよくこれを(ととの)えん まこと象つかいの (かぎ)をとりて 酔象を(ぎょ)するがごとく

この心 その願いの望むままに、欲求のままに、或いは享楽にまかせて放浪した。しかし今日こそは象師が酔象を制御するようにこの心を完全に制御しよう。