鳥取木鶏研究会4月例会 レジメ  徳永圀典記 

易経本文の解説

そこで今回は、六十四卦から成り立っております、易の本卦の解説と申しますか、眼目というものに入りましてお話を進めます。 

乾坤(けんこん)から既済(きさい)未済(みさい)

つまり、陰陽相対()原理と、それに基づく「(ちゅう)」の理論、これが易理の主眼であります。

その易は、天地の創造進化である万物生成化育の原型というものを六十四の種類に分け、それを「(じょう)(きょう)」と「()(きょう)」に二つにして、上経に三十卦、下経に三十四卦をおき、乾坤(けんこん)の二卦、これは一家で言えば父母に該当する、此れより始めて、既済(きさい)未済(みさい)に終わる六十四の卦を配列しております。 

糸口が大切

これを夫々細かに解説しておりますと、限りなく興味がありますが、そんな時間もありませんから、この六十四卦を一応残りの時間内に解説と申しますか、それも主眼を指摘しまして、あとは皆さんのお好きなように勉強される機会、契機というものを開いておきたいと思います。

易の入門は、糸口がほころびませんと中々進めないものですが、一旦糸口を見つけてそれに入りますと、あとは興味と努力で何とか自分でやれるものです。つまり一番入門が大切です。その為に既に十回のうち六回を費やしたわけであります。この六回に亘って申し上げたお話をよく玩味して頂くと、此れから先は非常に楽だと思います。

(けん)は男性、(こん)は女性

そこで、上経三十卦の劈頭(へきとう)にありますのが、乾坤(けんこん)の二卦、(けん)は男性、(こん)は女性。(けん)は父、(こん)は母であります。これが六十四卦を代表する大本であります。

そして、乾は、陰陽相対()原理で言いますと、陽性の代表でありますから、乾坤あわせて陰陽、そこに(ちゅう)の道(無限進歩)が開けるのであります。

 

卦辞(けじ)

また各卦には、冒頭に総論、これを卦辞(けじ)あるいは、卦辞(かじ)と申しますが、それが出ております。

そして最後に、それを要約する言葉がついておりまして、これを大象(たいしょう)、卦に対する結語、と申します。(しょう)に曰く、というのは大象(たいしょう)のことであります。 

(じょう)(きょう)

(けん)

(けん) 天上(てんじょう)天下(てんか) (けん)為天(いてん)

乾の卦は、その総論の冒頭、即ち卦辞に、有名な「元亨(げんきょう)()(てい)」という言葉があります。これは書を読む人は、誰知らぬ者のない有名な言葉でありまして、これを乾の卦の四徳と申します。 

宇宙、人生、天地、人間というものの存在、生活、活動を四つの徳目に要約したものであります。それに色々と解説がありまして、最後の締めくくり、いわゆる大象に、「(てん)(こう)(けんなり)君子以(くんしもって)自彊(じきょうして)不息(やまず)」、天行健なり、君子自彊(じきょう)やまず、という名言が書いてあります。 

元亨(げんきょう)()(てい)

この元亨(げんきょう)()(てい)の「元」の字が更にその代表で総括であります。この字は大変面白い字で、「二」と「儿」から出来ておりますが、二は上という字の古文字、儿は人間が歩く、活動を表しておりまして、元の字は、自然と生物とを要約した文字であります。万物一元に帰す、などと申しまして、時間的に言えば「はじめ」、立体的に言えば「もと」であります。

それから、部分的に対する全体的、従って小に対する大、万物を創造しこれを育成していく大きな力、これを元という字で表します。元気という言葉は、人間の分析、分解を超越した総合、統一、全体的な活力、生育の力をいうわけであります。その最も究竟(きゅうきょう)的なもの、即ち「(たい)(きょく)」これが「元」であります。これに気をつけて元気と言いますが、これは易から出た言葉であります。元気がなければ何も出来ません。 

無限の生成化育

そこで、元の働きは、無限の生成化育でありますから、これを亮という字で表し、とおる、と読みます。どんな障害にも負けないで、どこまでも進化していくという意味であります。よく、この字に一をつける人がありますが、これは()けるという字であります。

 

古い漢学の先生は、貞に(よろ)し、と読みますが、そう読んでは面白くありません。元亨(げんきょう)()(てい)の一つ一つが独立して夫々特殊の意味を持っております。これは元亨の働き、作用、その生命力、行為力が躍動する(しょう)であります。だから、とし、とも読みまして、鋭いという意味であります。利の字は、(のぎへん)―稲・作用、?(りっとうへん)刃物からなっております。切れ味がよいと能率があがるので、きく(効がある)、とし、と読みます。 

休止の無い天地の化育

天地万物を通ずる生成(せいせい)化育(かいく)の働きは、どこまでも進行して、停滞休止するものではありません。即ち、(とお)るであります。

そして何事があっても一貫して変わることのない不変性を持っておりますから、貞であります。つまり天地万物生成化育の働きは、言い換えると、元亨(げんきょう)()(てい)であり、一言で申せば「(けん)」であります。 

(てん)(こう)(けん)なり

その創造進化、即ち「(てん)(こう)」は健やかである。天の歩み、万物生成化育の働きは止むことなく行われて、その徳をうけて人間の代表である君子は、自彊(じきょう)()まずー自から修養努力するという意味であります。

元亨(げんきょう)()(てい)自彊(じきょうして)不息(やまず)、という語は、古より最も人口に膾炙(かいしゃ)しておりまして、随分多くの中国人や日本人の名前や雅号に使われております・

(こん)

(こん) 地上(ちじょう)地下(ちか) (こん)為地(いち) 

(けん)の卦は、各爻(こう)すべて陽であるのに対して、の卦はすべて陰であります。また乾のに対するであります。

これを要約する言葉は、君子、厚徳戴物(こうとくたいぶつ)―徳を厚くし、物を戴す、とあります。これは(けん)の徳、即ち天地創造のエネルギー、力をうけて、万物を生成し、これを包容する。これが(こん)の卦の特徴であり、本当の意味であります。 

乾坤(けんこん)

そこで、乾坤の両卦で、天地万物の生成化育の実体と原則、本質というものが要約されておりまして

乾坤の二卦を十分に研究し解明すれば、それで全体的には易経の根本精神、根本要旨というものが把握出切るわけであります。