桜と出家遁世の西行

この卯月は私の満80歳の誕生月である。目出度いのか、長生きし過ぎたのか分らない。だが、こうして生かされている。「死のうは一定(いちじょう)」、日々、精一杯生きてゆくのみだ。「往生は一定」なのである。卯月と言えば、桜、西行さんを思い出す。そこで「桜」をモチーフにして色々と歌を選んで日々楽しむこととした。余計なコメントは避ける。 平成2341日 岫雲斎圀典

1日 桜に死す

願はくば花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月のころ 

2日 散る あくがるる心はさてもやまざくら散りなんのちや身にかへるべき 
3日

(かざ)(ごし)の峯のつづきに咲く花はいつ盛りともなくや散るらん

4日

ならひありて風さそふとも山桜尋ぬるわれを待ちつけて散れ

5日

吉野山谷へたなびく白雲は峯の桜の散るにやあるらん 

6日

もろともにわれをも具して散りね花憂き世をいとふ心ある身ぞ

7日

眺むとて花にもいたく馴れぬれば散る別れこそ悲しかりけれ

8日

いざ今年散れと桜を語らはんかなかさらば風や惜しむと

9日 万葉集 巻16-3786

春さらば挿頭にせむとわが思ひし桜の花は散りにけるかも

10日 万葉集 巻10-1867

阿保山(あぼやま)の桜の花は今日もかも散り乱るらむ見る人なしに

11日 万葉集 巻10-1870

春雨(はるさめ)はいたくな()りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜しも

12日 万葉集 巻19-4151 

憂愁 大伴家持

今日の為と思ひて()めしあしひきの ()()の桜かく咲きにけり

13日 万葉集 巻19-4290

大伴家持
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに(うぐいす)鳴くも
14日 万葉集 巻19-4291
大伴家持
わが()()のいささ(むら)(たけ)吹く風の音のかそけきこの夕べかも
15日 万葉集 巻19-4292

大伴家持
うらうらに照れる春日に雲雀(ひばり)あがり(こころ)悲しも独りしおもへば
16日 古今集巻1-53 
業平
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

17日 古今集 巻2-84 友則 ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
18日 古今集 巻2-89 貫之

桜花(さくらばな)散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける

19日 新古今
巻2-114 

俊成
またや見む交野(かたの)のみ野の桜がり花の雪散る春のあけぼの
20日 西行 

山家集 139
春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり
21日 散る桜西行
山家集 139
春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり
22日 新古今 
2-139

家隆
桜花夢かうつつかしら雲の絶えてつれなき(みね)の春風
23日 再び西行の桜  

山家集66
吉野山こずえの花を見し日より心は身にも添はずなりにき
24日 山家集67 あくがるる心はさてもやまざくら散りなんのちや身にかへるべき
25日 山家集68 花見ればそのいはれとはなけれども    心のうちぞ苦しかりける
26日 山家集912 うかれ出づる心は身にもかなはねば    いかなりとてもいかにかはせん
27日

山家集67

あくがるる心はさてもやまざくら      散りなんのちや身にかへるべき
28日 西行は恋の人
山家集617
知らざりき雲居(くもい)のよそに見し月のかげを(たもと)に宿すべしとは 
29日 山家集621

おもかげの忘らるまじき別れかな名残りを人の月にとどめて  

30日 山家集628

嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな