時には文学を その二

時には文学に触れて心を癒したいと思う。

平成27年4月

1日 伊勢 平安中期の女流歌人、優美で品格ある歌人。
春がすみ 立つを見すてて 行く(かり)  花なき里に 住みやならへる
   帰雁をよめるとある。
2日 在原業平 平城(へいぜい)天皇の孫、六歌仙の一人、自由奔放で情熱的な歌を詠む。

渚の院にて桜を見てよめる、渚の院とは大阪府交野
  世の中に たえて桜の なかりせば
  春の心は のどけからまし
  巻一春歌上・五三
3日 素性法師 能書家として有名、平易な言葉を用いて親しみ深い歌を詠んだと言われる。
  見渡せば 柳桜を こきまぜて
    都ぞ春の 錦なりける 巻一春歌上・五六
4日 紀友則    紀友則   紀貫之の従兄弟、古今和歌集編者だが完成前に没した。
 ひさかたの 光のどけき 春の日に

   しづ心なく 花の散るらむ   巻二春歌下・八四

音羽山(おとはやま)けさこえくれば ほととぎすこず()はるかに   今ぞなくなる          巻三夏歌 百四十二
5日 僧正遍照 僧正(そうじょう)遍照(へんじょう) 桓武天皇の孫、六歌仙の一人。さつぱりした人柄を反映した歌を詠む。
  はちす葉の にごりにしまぬ 心もて 
   なにかは露を 玉とあざむく
 巻三夏歌百六十五
6日 清原養父 清原(きよはらの)(ぶか)養父(やぶ) 清少納言の曽祖父。
 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
 
  雲のいづこに 月宿るらむ
 巻三夏歌 百六十六
7日 藤原敏行 藤原敏行 感覚の優れた歌人、書家として著名。
 秋きぬと 目にはさやかに 見えねども
          風の音にぞ おどろかれぬる 
            巻四秋歌上・百六十九
8日 文屋康秀 文屋(ふんやの)(やす)(ひで)業平、小町と共に六歌仙ま一人。紀貫之が言葉は巧みと評した。
  吹くからに 秋の草木の しをるれば
    むべ山風を あらしといふらむ
         巻五秋歌下・二百四十九
9日 河内躬 (おお)河内躬(こうちのみ)(つね) 紀貫之と並び称された代表的歌人。叙景歌に優れている。
 心あてに 折らばや折らむ 初霜の

   置きまどはせる 白菊の花

         巻五秋歌下・二百七十七

あて推量に折るなら折ってみようか、初霜が辺りに一面に降りていて、どれが白菊やら紛らわしくしている。
  風吹けば 落つるもみぢ葉 水清み

     散らぬかげさへ 底に見えつつ
10日 坂上是則

坂上是則   坂上田村麻呂の子孫
  朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに

     吉野の里に 降れる白雪

11日 小野小町 小野小町 平安初期の女流歌人。六歌仙の一人、情熱的で繊細優美な恋の歌を多く詠む。
  思ひつつ ぬればや人の 見えつらん

    夢としりせば さめざらましを


  うたた寝に 恋しき人を 見てしより

    夢てふものは 頼みそめてき
12日 壬生忠峯 壬生忠峯  古今和歌集選者の一人。叙情を主とした平明な歌が多い。
   すみぞめの きみがたもとは 雲なれや

       たえず涙の 雨とのみふる
13日 掛詞 ここで古今和歌集の技巧について述べる。先述したように古今和歌集には、機知や言葉遣いの工夫により、やさしく優美な感じを漂わせた歌が多い。その技巧の一つである。
1. 掛詞(かけことば) 一つの言葉に二つ以上の意味を持たせ、上下の句にかけて用いる表現技巧。音が同じ意味で違う語を利用する。
  すみぞめの きみがたもとは 雲なれや
           たえず涙の 雨とのみふる
              ふるは雨が降ると、袂を振る。
14日 縁語 2.縁語(えんご)  
関係ある言葉を連ねて調子を整え味わいを深める表現技巧。

  あをやぎの糸よりかくる 春しもぞ
    みだれて花の ほころびにける
   
柳の枝を糸に見立て、撚り掛く、乱る、ほころぶ、と糸と縁の深い語を用いて表現している
15日 序詞 3 序詞(じょことば) ある語句を導くために前置きとして用いられる語句である。
  例歌
    あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の
    長々し夜を ひとりかも寝む 柿本人麻呂

    駿河なる 宇津の山べの うつつにも
    夢にも人に あはぬなりけり 在原業平
16日 あはれ あはれ
 平安時代文学の代表的な美意識をいう言葉。
「うれしい」につけ、「楽しい」につけ、「悲しい」につけ、心の底から自然に沸き起こる感動、しめやかで、しみじみした情趣を言うのであろう。源氏物語で完成さされた美の理想とされている。
17日 をかし をかし
「あはれ」と同様に、平安時代の文学の代表的美意識を言う。事柄や、ものに対して、おもしろい、うつくしい、など強い興味を引き起こす美的な感覚であり、客観的、批判的にものを観察して捉えようとする時に使われており、「知的、理性的な美」を表現している言葉、枕草子に代表されるが、よく使われた言葉で風流がある。
18日 宮廷女流文学

1016年となり藤原全盛期を迎える、藤原道長が摂政となる。摂関政治である。これは宮廷女流文学を生むことになる。紫式部の源氏物語、清少納言の枕草子、その他和歌、日記、物語の創作、随筆も多く現れる。

19日 世界に冠たる

宮廷では、歌合せという和歌の作り比べも行われて貴族の嗜みとして流行もした。白河上皇の院政、平清盛太政大臣の頃には民衆文学の芽生えもみてとれる、今昔物語、梁塵秘抄など説話、歴史物語などである。

20日 欧米より五百年早い

物語ものが多い、かぐや姫、竹取物語、歌物語の伊勢物語、日本を代表する源氏物語五十四帖など世界に冠たるものである。欧州はこの頃から500年後にカンタベリー物語が西欧最初の物語である。

21日

土佐日記、蜻蛉日記、紫式部日記、更級日記など随筆が現れた。簡潔で鋭い感覚と簡潔な文体の清少納言の枕草子が極めて印象的である。

22日 説話文学

紫式部は「もののあわれ」、清少納言の「をかし」等々の女流文学の隆盛も世界初ではあるまいか。これはこの時代の特色であり、日本には古代から男女平等、民主主義がなだらかに発展する素地を感じるのは私だけであろうか。

23日 説話文学は、貴族ばかりでなく僧侶、武士、盗賊などあらゆる人々が登場している今昔物語のも面白い。
24日 日本霊異記

個別の作品はどんなものかを簡単に見てみよう。
日本霊異記
 これは景戒という薬師寺の僧の編集である。わが国最古の説話集である。各地に伝わる仏教説話110余りを編集したもの。

25日 伊勢物語 作者は未詳、在原業平の歌を中心に125段の小話からなる歌物語である。各段の多くは「むかし、をとこありけり」で始まり一人の男の一代記の構成である。
26日 和漢朗詠集 藤原公任らの撰。漢詩文や和歌の中から節をつけて朗詠するのに適した歌を選んだもの。漢詩では白居易、和歌では紀貫之が多い。
27日 栄華物語 作者未詳。40巻からなる仮名による歴史物語。宇多天皇から堀河天皇までの200年間の歴史を藤原道長の栄華を中心とした物語。
28日 更科日記 菅原孝標女作。上総の国から父に伴い上京した少女期から夫の死後、極楽往生を願う51才までの人生を回想した自叙伝的な日記。
29日 梁塵秘抄 後白河院撰。平安後期、貴族や庶民の間に流行した色々な歌謡を集めたもの。当時の庶民の生活とか風俗を知る貴重な歌謡集と言われる。
30日 お休み 5月1日再開する。