嵯峨野  

子規(ほととぎす)大竹原(おおたけばら)をもる月夜    松尾芭蕉 

京都と言えば嵯峨野と言いたくなる。 

いかにも優美で京都らしい語感もある。王朝時代からの数々の悲恋の繰り広げられた地、それが現代にも生きているようにさえ思える場所・嵯峨野。 

嵯峨野とは、大覚寺、清涼寺のほとりを北嵯峨と言い、

天竜寺、法輪寺の辺を下嵯峨と名づく。野々宮はその中途なり。いにしへより閑静の地にして故人も多くここにかくれ、秀咏(しゅうえい)の和歌数ふるに(いとま)なし、とは、江戸時代の安永九年「都名所図会による。 

我輩も青年期より傘寿のこの高齢まで、いくたび歩きてこれらの古跡を訪ねしか。

                岫雲斎圀典