菅首相には「頭の中の世界地図」がない後藤謙次 ジャーナリスト 

かねがね、直観を基本に「おれ流の首相合否基準」なるものを勝手に作り、秘かに歴代首相を採点してきた。 

チェック項目は全部で10程度のおおざっぱなものだが、これが結構当る。中でも絶対に外せない「基準」が「頭の中の世界地図」である。 

「この首相には世界地図がどこまでインプットされているのか」。ほかの項目がどんなに高得点でも「頭の中の世界地図」がない首相はそのことだけで、落第の判定をせざるを得ない。 

地理の授業じゃあるまいし、首相の「世界地図」は国名と場所さえ覚えていればいいわけがない。

国際情勢、日本との関係など日本の国益に直結する様々な要素を絡めた立体的な世界地図のことだ。 

処が、鳩山由紀夫、菅直人と続いた民主党の二人の首相にはとても「頭の中の世界地図」があるとは思えない。

極めつけは、北方領土の日に飛び出した菅首相発言。メドベージェフ・ロシア大統領の国後島訪問について「許し難い暴挙だ」と激しく非難したのだ。 

これには、思わず耳を疑った。内容の是非はともかく久し振りの日ロ外相会談の直前というタイミングの悪さには開いた口がふさがらない。 

外務省内には、「この発言で、領土交渉は振り出しどころか、振り出し前のマイナス地点まで押し戻さされた」話す幹部もいる。 

過去に遡ると、北方領土問題の決着が最も現実味を帯びたのは橋本竜太郎首相とロシアのエリツィン大統領による「ボリス・リューの時代」だ。

その第一次橋本内閣の厚生大臣がほかならぬ菅首相だった。菅首相は橋本氏が立向かった首脳外交を閣僚の一人として目の辺りにしていたはず。 

にもかかわらず、菅首相の外交への取り組みを見ると。その片鱗すら感じられないのだ。 

社交と外交は違う。外交は権力闘争の場である。しかし、現状の民主党外交は、悲しくなるぼとの連敗続き。

国対政治、派閥政治の権化のように言われたあの竹下首相。その竹下邸の茶の間の壁には、たたみ一畳分もある大きな世界地図が貼ってあった。竹下氏は、毎日その地図と対話を重ねていたのだ。「世界地図なき首相」にはご退場願うほかはない。