鳥取木鶏会 4月レジメ 

安岡正篤先生の座有銘・百朝集より 

六時(ろくじ)(しん)(かい)

鬧時(だうじ)・心を練る。静時(せいじ)・心を養ふ。()()・心を守る。(げん)()心を(せい)す。(どう)()・心を制す。  格言聯壁

こういう人知れぬ自心の秘修など近代人は全くやらなくなって、世間を相手に議論し運動するような華やかな然し空虚なことばかり流行る。人物事業の出ない所以である。

騒がしい時、ごたごた取り込んでいる時こそ、それにめげぬように心を練ることだ。

静かな時に心を養っておきも坐る時には心も動揺を静めるように守り、行動する時は心を実験する好機である。ものを言う時は、内心を反省せねばならぬ。動揺する時には散乱しやすい心をよく制御すべきである。 

(ひち)(よう)

時令(じれい)(したご)うて以て元気を養ふ。思慮を少うして以て心気を養ふ。

言語を省いて以て神気(しんき)を養ふ。肉欲を(すくな)うして以て(じん)()を養ふ。

(しん)()を戒めて以て(かん)()を養ふ。

滋味を薄うして以て胃気を養ふ。多く史を読みて以て(たん)()を養ふ。
(
格言連壁)

時令は季節・時候の意。元気は心身一如の原始的創造力。心気は、その内奥の心理的な力。その更に奥深い霊的なものが神気である。腎気とか胆気とかいうものは内臓諸器管みな夫々特殊機構を持って放電していることを思うと味解できる。

春には春の、秋には秋の生活様式がある。同様に寒帯には寒帯の、熱帯には熱帯の飲食起臥の方向がある。夏は夏らしく、冬は冬らしいというように暮らしておれば、生命力は健康である。

夏むやみに冷やしたり、冬やたらに暖めたり、熱帯の果物を取り寄せたり、寒国の肉類を選んだりして、時ならぬ異味を、とんだ処で珍玩するなどは生命の理に反して元気を傷める。

心気は同時に心臓の気である、活力である。思慮を少なくして安らかにすることが養心の秘訣である。必要もないのにベラベラ喋るようなことはその人間を最も浅薄にする。黙養という言葉があるとおり、神気を養うには、下らぬお喋りはせぬことだ。飲食女色は腎を弱め、瞋怒(いかり)は肝を弱め、脂っこいような植物は胃に悪い。

古今の治乱興亡に通じることは、膽気を養い度胸を造る。一時一処の成敗(せいばい)得失(とくしつ)くらいに転倒せぬからである。唐の()(ぼく)は悲劇の英雄項羽を弔い詠じた。「勝敗は兵家も期すべからず。(しゅう)を包み恥を忍ぶ是れ男児。江東(こうとう)の子弟、才俊多し。捲土重来(けんどちょうらい)せば未だ知るべからじ。