安岡正篤先生「易の根本思想」3
平成20年5月
5月 1日 | 陰陽相対(待)原理 |
易と言えば陰陽ということが、何人もの常識となっているが、陰陽が易の原理になりだしたのは実は戦国中期以後のことで易経の成立につれて五行思想と共に、そうなったものと言わねばならない。 |
それまでは専ら、剛・柔が用いられた。 剛は「生の活動・分化・固定から受ける感覚」であり柔は「生の全一・順静・包容についての感覚」である。易はこの剛柔の原理から次第に陰陽の原理を主とするように変化していったものである。 |
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5月 2日 | 気とは |
易は、天地が万物を創造し、変化する力を気とした。気の古字は气で、雲の起こる象である。今日使われるエネルギーの素朴な考と云ってよい。 |
気に、陰・陽二気がある。これは相対であると同時に、相待でもある。陰が陽にも変ずれば、陽が陰にも変じ、陰陽相応じて新たな創造変化の推進(中)が行われる。何よりも近代自然科学が尤もよくこの理法を証明し始めている。 |
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5月 3日 | 正反の相待性 |
宇宙には我等の太陽が属する銀河系を含め、数十億の島宇宙がある。それにも、正反の相待性があって宇宙創成のある時期に、これが分裂と同時に反宇宙物質が正宇宙にも含まれたと見られている。 |
今日、問題のシリコン(珪素)に対しても、反シリコンが発見された。両者を一つにすると、爆発的反応を起こし、全質量がエネルギーに化する。そして一トンについて普通の水爆の三百倍の力になるという。 |
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5月 4日 | 陰陽・両性の作用 |
我々の生体を化学的に見ると、酸という陽性と、アルカリ性という陰性との相待性反応の裡にあることは周知であるが、いづれも同時に相待的で、同じ一種の酸が他に対して基として作用し、また第三のものに対しては酸として作用する。 |
例えば、乳酸が、ある条件の下では酸としてではなく、一つの基として作用するようなものである。徳川時代を通じて尤も異色のある思想家の一人であった安藤昌益は、この相対にして相待なる両性の作用を自然真営道の「互性活真」と呼んでいる。reciprocality、mutuality の訳語に互性は妙であろう。 |
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5月 5日 | 陽は道の用、陰は道の体 |
陽は造化の活動し、表現し、分化し、発展するエネルギーである。然し、これに偏すれば、活動は疲労し、表現は貧弱になり、分化は散漫・分裂し・発展は衰滅する。これを救うものは陰のエネルギーである。 |
これは順静・潜蔵・統一・調節の作用をする。この互性が働いて始めて新しい造化が行われる。それを「中す」という。物は全て陽に向うが、陰を待って、始めてよくその全体性・永続性を得る。故に、造化を我々の歩行に徴して「道」と言えば、陽は道の用であり、陰は道の体である。 |
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5月 6日 | 論理は豊かな直感ありてこそ |
人間の心身も過労すると酸化する。酸を傷むと訓むのはえらいものである。酸敗、心酸などという古語に頭が下がる。健康の時、体内は弱アルカリ性である。人間精神も、知性は陽性である。物を分つ、ものわかりである。 |
認識とは物の区分・区別をはっきりさせることである。それによって概念を得る。その分化を発展させる手段が論理である。だから概念的・論理的、つまり理屈になるほど、根幹・全一・生命から遠ざかる。中味が無くなる、くたびれる。概念的論理的知識は豊かな直感に基づかねば浅薄であり危険である。 |
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5月 7日 | 人間の基本は「情」 |
知性に比して言えば、情性は陰である。情は物を結び、物を含蓄する作用である。偉人は必ず偉大な情の人でなければならぬ。 |
その情も幽情を貴ぶ。皮相な感情は危い。意思も欲求は陽であるが、反省は陰である。反省のない欲望ほど危いものはない。 |
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5月 8日 | 徳性が人格の本体 |
才能は自己を外界に働かせる能力であるから陽性である。だから知も才もとかく利己的になって、人から好まれない。他との調和を破る。 |
これに対して、徳というものは、物を容れ、物を結ぶ能力で、陰である。徳性が人格の本体で、知や才はその用である。 |
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5月 9日 | 男と女 |
男は陽性であるから、活動力に富み、社会的で、知性や欲望や才能を本領とする。 |
女は陰性であるから、静かで家庭的で、知性よりも情性、欲望よりも反省、才能よりも徳性を本領とする。 |
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5月10日 | 男女の金の使い方 |
男は代表するが、女は治中する。金を持たせれば男はまづ費おうとするが、反省して貯える。金使いのケチな男は男らしくない。 |
女は、まづ貯えるが、反省して義理の為に費う。金使いの荒い女は女らしくなく、家を持てない。 |
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5月11日 | 異性関係の男女差 |
異性関係にしても、男は本能的に浮気であるが、反省して節を守る。 |
女は、本能的に一を求めて貞いが、反省して離れ |
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5月12日 | 西洋・東洋両文明の陰陽 |
西洋文明の本領は、個人主義的で、我の自覚が明らかであるから、自治的で、権利・義務の観念に富み、功利に長じ、構成に巧みで、知性的・表情的・野心 |
的なところは明らかに陽性である。 東洋文明は没我的で、理想を求め、献身的であるが、自覚に乏しく、直感的・幽情的・内省的で、陰性である。 |
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5月13日 | 近代西欧文明の疲弊 |
近代西欧文明は余りに陽性に傾いて、疲れて、理屈っぽく、激情的で、野心が強く、功利に馳せすぎて、道徳を失い、闘争に駆られて、融和がない。その果が、二大陣営に別れて、破滅の危局に立っている。 |
東洋は陰性の故に、近代の生存競争に遅れ、機械的功利的に落伍して未開発国とされてきたが今や、現代の救いは、新たに東洋文明をいかに結合し、活用するかにあるということは心ある西洋先覚者の斉しく着目留意する所となっている。 |
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5月14日 | 東西の契合 |
終戦後間もなく出た、エール大学のノースロップ教授著「東西の契合―世界融会に関する探求、 |
F.S.C.Northrop:The Meeting of ーEast and West−An Inquiry concerning WorldUnderstndingなどはその先蹤の一である。 |
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5月15日 | 主観の練磨の結果 |
主観と客観についても、主観主義の思想を底の底まで考え抜くか、骨の髄まで生き抜く時、自己の内なる厳しい客観性に到達する。 |
易が歴史的に卜筮を通じて主観を練磨した結果は、生そのものに内在する厳しい必然性、内的客観性を把握したのである。 |
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5月16日 | 天地万物の理、独なる無し、必ず対あり |
トインビー教授が、この陰陽相対(待)理論 Yin and
Yang Theory によって、人類文明興亡を探求した歴史哲学に新生面を開くを得たのも首肯することができる。(A.・Toynbee:Study of History) |
もしこの理法が真に体得されたならば、偉大な精神的自由を得るであろう。宋の大儒・程明道は、天地万物の理、独なる無し、必ず対あり。安排有るに非ざるなり。中夜以て思う毎に、手の舞ひ足の踏むを知らざるなり(近思録)と言ってるが、さもこそと思われる。 |
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5月17日 | 普遍的思想律 |
陰陽思想とほぼ時を同じうして、五行思想が発達普及し、これ亦、易学構成の中に収入れられて、爾来、陰陽五行は,中国・日本諸民族を通じ、最も普遍的な思想律となったということができる。 |
造化の気を考えるにあたって古代人は存在の代表的な素材である、木・火・土・金・水、を撰んで、それらを有らしめ、働かせるエネルギー・気・即ち「五気」を考え、その作用を旨として「五行」と称し、これを深く推究していった。 |
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5月18日 |
大切な「相生・相剋」関係 |
五行について最も大切なのは、その「相生・相剋」関係である。「木」を焼けば「火」を生じ、「火」は灰・「土」を生じ、「土」は金属を生じ、金属より「水」を生じ、「水」は「木」を生長させるというわけで「木生火」、「火生土」、 |
「土生金」、「水生木」と循環する。これに反して、「木」は「土」を搾取して生長するから、「木剋土」、同様にした「土剋水」、「水剋火」、「火剋金」、「金剋木」となる。 |
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5月19日 | 五徳と五臓・五腑 |
この五行を万事万物に応用して生剋の関係を観察する。戦国時代、斎の趨衍は、この道に於て最も大名を馳せ、大著述を試み、諸方面に非常な尊敬と優待とを受けたが、今は全く伝わってをらない。 |
生理的には、五臓・五腑で、これに陰陽を取り入れ臓は陰、腑は陽で、「肝・心・脾・肺・腎・膽・小腸・胃・大腸・膀胱」という風に分類する。これが今日新に科学的に検討され、多くのその真なることが実証されだしてきてをることは大いに注目する。その五行の配列を試みに十種あげてみる。 |
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5月20日 |
五行の配列 |
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5月21日 | 臓腑の五行 |
これを臓腑で説明すると、肝・膽が良くなれば、心・小腸が良くなる。さすれば、脾・胃・肺・大腸・腎・膀胱。 |
やがて肝・膽へと順々に皆良くなってゆく。 |
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5月22日 | 肺 |
肺だけが悪いということはない。その源流は遠い。肺病患者が、その腸(用)である大腸を害すれば万事休すである。 |
肺を良くしようとすれば脾・胃から始めて、総てを総合的に良くせねばならぬ。それには薬よりも、日常の食である。 |
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5月23日 | 色 |
色を以て言えば、青物は肝臓に善く、赤物は心・小腸に善く、黄物は脾・胃に善く、白物は肺・大腸に善く、黒物は腎・膀胱に善い。 |
腎・膀胱を悪くすれば、顔色が黒く濁り、肺を悪くすれば、白つちやけ、脾・胃が悪ければ肝・膽が悪いのであるから青黄いろく、肝・膽は青ざめる。という次第である。 |
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5月24日 | 五行の陰陽 |
五行に陰陽が加わり干支が組み合わされるようになって、益々組織だてられた。干は幹、支は枝、本末関係であるが兄弟と言われる。もと干を以て日を、支を以て月を測ったものらしい。 |
干支は夫々陰陽に分ち、十干・十二支を定めた。十干は殷虚の甲骨にも記されているから、随分古くから行われたものであるが、所謂五行思想となったのは矢張り戦国時代になってからである。 |
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5月25日 | 東洋古代史は確実 |
この干支を、年・月・日・時に用いたことは、天文学の上に偉大な効果のあったことで、合理的であり、特に古い年代をたどるのに頗る便利で、東洋の年代が外国に比して確実なのはこの為だとせられている。 |
例えば、春秋の桓公三年七月壬辰朔、日有食之。壬辰とあるので、容易に逆算して、西紀前709年7月17日(ユリウス暦)の日食であることが判明する。随って桓公の年代も定まり、同時に春秋そのものの歴史的に確実なこともわかる。 |
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5月26日 | 本卦還り |
十干に十二支を組み合わせるから、甲子より乙丑・丙寅と一巡して癸亥に終わる。 |
丁度六十である。そこでまた甲子に復る。これを還暦といい、自分の生れ年の干支が復び還るというので「本卦還り」と云って祝うのが今に続いている。 |
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5月27日 | 干支の本義 |
この干支の本義は、古代研究に便利な漢の釋名や、史記の暦書によっても、 |
実は生命消長の循環過程を分説したものであって、木だの、火だの、鼠だの、牛だのと直接関係のあることではない。 |
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5月28日 | 干支の本義2 |
甲木 草木の芽生え、麟芽のかいわれの象意。 |
乙木 陽気のまだ伸びない、かがまっているところ。 |
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5月29日 | 干支の本義 3 |
丙火 陽気の発揚。 |
丁火 陽気の充溢。 |
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5月30日 | 干支の本義 4 |
戊土 茂に通じ陽気による分化繁栄。 己土 紀に通じ、分散を防ぐ統制作用。 |
庚金 結実、形成、陰化の段階。 辛金 陰による統制の強化。 |
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5月31日 | 干支の本義5 |
壬水 妊に通じ陽気を下に妊む意。 |
癸水 揆に同じく生命のない残物を清算して地ならしを行い、新たな生長を行う待機の状態。 |
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まとめ |
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