愛しいヒュースケン 

オランダ人だが幕末のアメリカ全権大使ハリスの通訳、ハリスの片腕として日米外交交渉に寄与した。薩摩藩の攘夷派に暗殺された。残念なことをしたものだ。次の彼の言葉を知るがよい。 

「いま私が、いとしさを覚え始めている国よ、この進歩は本当に進歩なのか? この文明は本当にあなたの為の文明なのか?この国の人々の質朴な習俗と共に、その飾り気のなさを私は賛美する。この国土の豊かさを見、至る所に満ちている子供達の愉しい笑い声を聞き、どこにも悲惨なものを見出すことが出来なかった私には、おおも神よ、この幸福な情景が今や、終わりを迎えようとしており、西洋の人々が彼らの重大な悪徳を持ちこもうとしているように思われてならないのである」。  

ヒュースケンの感動

それは、富士山を見た時の彼の感動である。 

「谷間におりて、天城の山頂に去来する雲から外に出ると、田畑がひらけてくる。やわらかな陽射しを受けて、うっとりとするような美しい渓谷が目の前に横たわっている。とある山をひと巡りすると、立ち並ぶ松の枝ごしに太陽に輝く白峰が見えた。 

それは一目で富士ヤマであることが分かった。今日初めて見る山の姿であるが、一生忘れることはあるまい。この美しさに匹敵するものが世の中にあろうとは思えない。(中略、続く) 

ヒュースケンの感動 

「ここでは、稔り豊かな田園の只中に、大地と齢を競うかのような松の林や、楠の老樹が帝国の古い神々の祠堂に深い影をさしかけるところ、豊かさと清けさのこの殿堂を背後から包むようにして、たぐい稀な富士ヤマのすっきりした稜線が、左右の均整を保ちながら高く聳えたち、清浄な白雪は夕日に映えて、恰もコイヌール(大きなダイヤモンド)のように、青い山肌を薄墨色にかげらせている。 

私は感動の余り思わず馬の手綱を引いた。脱帽して「素晴らしい富士ヤマ」と叫んだ。頭に悠久の白雪を戴き、緑なす日本の国原に、勢威四隣を払って聳え立つ、この東海の王者に久遠の栄光おれ!」と讃えている。

   平成20年5月1日 

徳永日本学研究所 代表 徳永圀典