徳永の「古事記」その2 「神話を教えない民族は必ず滅んでいる」

これは、世界的歴史学者トインビーの言葉である。12歳から13歳くらい迄に、民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく亡んでいる」。日本人にとって、戦慄するような叡知の言葉である。日本人はアメリカの遅効麻薬のような占領政策の効き目を痛い程感じなくてはならぬ。

平成24年5月    

1日 日本の神様を知る 古事記も日本書紀も、日本を生み、作り、統治してきた神々の物語である。 どのような意図で編纂されたのか。概略を図説してみよう。
2日 編纂意図
日本書紀 古事記
対外的正史 性格 天皇家の歴史書
二巻までが神代、中国や朝鮮の史書も反映。代41代・持統天皇までの事蹟掲載。 構成 上巻は神々の物語。中巻は神武天皇の物語。下巻は33代推古天皇までの事蹟。近い天皇の系譜が記された。
天武天皇勅命により川島皇子、中臣大嶋ら6官人で開始。舎人親王らにより完成。

編纂者

天武天皇勅命により稗田阿礼が帝紀と旧辞を暗誦し語り、太安万侶が筆記。
日本書紀 古事記
30巻と系図1巻。 巻数 3(上・中・下)
奈良時代初期の養老4年。720年。44代元正天皇。 完成時期 奈良時代初期の和銅5年、712年。43代元明天皇。
すべて漢文。 表記 和化した漢文体。
3日 記紀に見る日本の神々 古事記と日本書紀は天地創造の物語から始まる。両書を併せて「記紀」と呼ぶ。両書には、縄文時代の「精霊崇拝」、弥生時代の「祖霊信仰」、大和朝廷の「首長霊信仰」などなど古代日本の「信仰対象」が見られる。「神話」とされているのは、神武天皇が誕生するまでである。 その後は、神話に裏打ちされた正統な支配者が国を治めて行く歴史的な物語へと移行する。神武天皇が天下を治めるまでの「神武東征」物語には、色々な神が進路を支援し、時には悪しき神が邪魔をする。場合には神武に降伏する神も登場して神話の雰囲気が濃厚である。古事記の三分の一は神話である。
神々 (国の誕生から大和朝廷まで) 神々 (国の誕生から大和朝廷まで)
4日 二種類の神々 一つは「(あま)つ神」で天地創造後に天(高天原(たかまがはら))に現れた神様。

今一つは「(くに)つ神」で地に現れた神様。

然し、天から追放され地上に住むこととなる「須佐之男命」の子孫は「国つ神」に含まれる。記紀は何れも、天つ神により国が生み出され、平定されて天皇家が誕生する。天皇家が代々重ねられていく様子が綴られている。天皇の祖先である天照大神を含む天つ神が、国つ神を従えて行くのが記紀の基本的な展開である。

神々の誕生

神々の誕生

神々の誕生
5日 神々の誕生
      日本書紀では
世界は混沌としていた。
混沌とした中で、天と地が生まれる。
国常立神初めとした三神が現れた。
神世七代。地上で二柱が誕生、以後、男女ペアの神が五組現れる。
男女ペア五組の中、一番最後に生まれた一組が国生みをする。
   古事記では
天と地は混沌とし地では形のない大地が海を漂っていた。
天の一番高い場所の高天原で三柱の神々、地からは二柱の神の合計五柱の神様が現れる。(天之常立神、高御産巣日神、天之御中主神、神産巣日神、宇摩志阿欺詞備比古遅神)
上記五柱の神々が身を隠す。
神世七代。地上で二柱が誕生、以後、男女ペアの神が五組現れる。
男女ペア五組の中、一番最後に生まれた一組が国生みをする。
6日

古事記で最初の五つの神々「(こと)(あま)つ神」

それを「(こと)(あま)つ神」と申す。この世が、天と地に分かれ天に「高天原」が出来た時、最初に出現したのが「天之御中主神」、「高御産巣日神」、「神産巣日神」の「造化三神」である。高い生々霊力を持つ神々。その後、国土がまだ無く、地上では水に油が浮いているような状態の時、 宇摩志阿欺詞備比古遅(うましあしかびひこぢの)(かみ)、次に、

天之(あめの)(とこ)(たちの)(かみ)が誕生した。これら五神は高天原の中でも特別の存在の神であり「(こと)(あま)つ神」と呼ばれる。

7日 (こと)(あま)つ神」の図説。
1.天之(あめの)(とこ)(たちの)(かみ)
2(たか)御産(みむ)()(ひの)(かみ)
3天之(あめの)御中主(みなかぬしの)(かみ)
4神産(かみむ)()(ひの)(かみ)
5宇摩志阿欺詞備比古遅(うましあしかびひこぢの)(かみ)
1.天を形成する力の象徴。宇摩志阿欺詞備比古遅(うましあしかびひこぢの)(かみ)の次に誕生。天を安定させる力を示すと言われる。
2造化三神の一柱。尊称の「高御」、生産や生成を表す「産巣」、霊力を表す「日の神」、偉大な生産の霊力を持つ神。

3天地の始まりと共に最初に誕生した神。造化三神の一柱で宇宙の「天」、中心を示す「御中」、主君を表す「主」、宇宙の中心にまします主君」の神。

4造化三神の一。生産生成の産巣、霊力の日。出雲系の神々の祖神的な存在と言う。
5生成の神の造化三神の後に生まれた神。強い生命力を持つ、「立派な葦の芽の男性の神」という名前を持つ神。
8日 (かみ)()七代(ななよ)」の神々

次に誕生するのが「(かみ)()七代(ななよ)」の神々である。「国之(くにの)(とこ)(たちの)(かみ)」「(とよ)(くも)()()(かみ)

さらに男女ペアの神五組の中で最後に登場するのが「伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)」と「伊耶那(いざな)(みの)(かみ)」である。他の神々から命じられて、「この漂える国を良く整えて、作り固める」事となるのである。
9日

(かみ)

()

(なな)

()

伊邪那(いざな)(ぎの)(かみ)

伊邪那(いざな)(みの)(かみ)

於母陀流(おもだるの)(かみ)

阿夜訶(あやか)()古泥(こねの)(かみ)

意富斗(おほと)()地神(じのかみ)

大斗乃(おほとの)(べの)(かみ)

角杙(つのぐひの)(かみ)

活杙(いくぐいの)(かみ)

宇比地邇(うひぢにの)(かみ)

須比智邇(すひぢにの)(かみ)

(とよ)(くも)()(がみ)

国之(くにの)(とよ)(たちの)(がみ)

古事記の神々の世界とは  古事記の神々の世界とは 
10日 神話の舞台、天と地の仕組み 記紀神話には陰陽五行説に基づく天と地の世界観があると言われる。天にある神々の住む世界が「高天原(たかまがはら)」である。そして、天と地の間にかかるのが「(あめ)浮橋(うきはし)」、地上の世

界との中間には理想郷として海神の宮などのある「常世(とこよ)(くに)」が存在している。その下に地上世界の葦原(あしはら)()中国(なかつくに)、即ち出雲国などがある。

11日

海には海神の住む海中に「綿津(わたつ)見宮(みのみや)」があるとした。地下には、神々の「()()堅州(かたす)(くに)」がある。そして、地下には別に死者と不浄の神々の住む「黄泉(よみの)(くに)」があり、途中には「千引の岩」、「黄泉比良坂」を経なくてはならない。

註 「千引の岩」

黄泉比良坂にあり、黄泉国への出入り口を塞いだと言われる。島根県松江市東出雲町揖屋。

12日 葦原の中国(なかつくに)は、国の中の国であり、択ばれた人間の住む中原(ちゅうげん)の国で尊称である。出雲の国も中国(なかつくに)である。()()堅州(かたす)(くに)には、高天原を追放された須佐之男命が辿り着いた場所で、元々は須佐之男命の母が住んでいたとされる。

()()堅州(かたす)(くに)は死者の住む黄泉国ではない。天、地上、地中の縦軸の三世界である。葦原の中国(なかつくに)は横軸で繋がっている。海の向こうの理想郷の「常世(とこよ)(くに)」や「海神の国」もある。海神の国は、現実には海外の新知識や新技術であろうか。

13日 大地と神々を生んだ神 それは「伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)」と「伊耶那(いざな)(みの)(かみ)」の夫婦神である。国生みをしたこの両神、神生みで命を落とした妻・伊耶那(いざな)(みの)(かみ)を追い、 伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)は黄泉国へ行く。その後の「(みそぎ)」で伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)が顔を洗った時、太陽神、月神、須佐之男命が生まれている。
14日 神話の最初の主人公 それは、「伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)」と「伊耶那(いざな)(みの)(かみ)」であることは言うを待たない。神世七代の最後に生まれたペア神。男女の形の最初の神である。 神世七代は、最初の男女神は「ヒヂ」=泥、

二番目の神は、「クイ」=身体の原形、

三番目の神は、「ト」=陰部」、

四番目の神は、「オモダル」=面足、顔や身体の充足、

これらを神格化したもので、神世七代とは、「次第に両性のそれぞれの器官が揃って行く」過程を表現しているのであろう。

15日 そして、最後に誕生し、五体具足の形をなした最初の男女神が伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)伊耶那(いざな)(みの)(かみ)である。 名前の「伊耶」は誘うの意。「那」は助詞の「の」、「岐」は男、「美」は女を表している。この二神の役割は、男女の営みによる繁殖である。
16日 他の神々から、「この漂える国をよく整えて作り固めよ」と命じられた二神は、天に浮ぶ天の浮橋に立ち、下界を雲の間から見下ろした。そこに(あぶら)のような薄い膜が漂い、枯れた葦や草が頼りない浮島を作っているようにも見えた。二神は、聖なる「(あめの)()(ぼこ)」を伸ばして、その海を掻き混ぜた。 そして海から(あめの)()(ぼこ)を引き上げた時、こぼれた塩の(しずく)()()()()(しま)となる。二神は、この島に降り、「(あめの)御柱(みはしら)」と神殿を建てて、他の島を生む準備に入るのである。
17日 二神の言葉 伊耶那(いざな)(みの)(かみ)

「吾が身は成り成りて成り合わぬ処一処(ところひとところ)在り」

伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)

「吾が身は成り成りて成り余れる処一処(ところひとところ)在り」

18日 ()()()()(しま)に降りた伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)伊耶那(いざな)(みの)(かみ)が交した言葉である。 二神は「成り合わぬ」不完全な部分を「成り余れる」余分な部分で埋め、国生みすることを承諾し合う。この後、天の御柱の周囲を回り落ち合った場所でまぐあい(性交)をする。
19日 ()()()()(しま)に構えた神殿で、二神は会話を交わす。先ず、男神のイザナギが「お前の身体はどのようになっているのか」と女神イザナミに問う。するとイザナミは「吾が身は成り成りて成り合わぬ処、一処あり」と答えた。 それに対して、イザナギは「吾が身は成り成りて成り余れる一処あり」と言い、「その余分な処で貴方の不完全な処をふさぎ国土を生み出そう」と話した。イザナミは「宜しうございます」と了承した。
20日 最初の出産の失敗原因 二神は、イザナギの提案で天の御柱の周囲を逆に回り出会った所で契りを交すことを決めた。イザナギは左から、イザナミは右から回り、出会った。先にイザナミが口を開き 「あなにやし、えおとこを」(ああ、なんて、いい男なのだろう)続いてイザナギが「あなにやし、えをとめを」(ああ、なんて、いい乙女なんだろう)と交して契りを交す。
21日 最初に生まれた子()はヒルのような骨無しの「()蛭子(るこ)」であった。不完全な子であり葦舟に乗せて流してしまう。続けて生んだ子(淡島)も同様であった。 なぜ出産がうまくゆかないのかと高天原の神々に相談した処、神々は鹿の肩甲骨を焼きそのひびの入り方で占う。「御柱を回る儀式の際に、最初に女神のイザナミが口を開いたのが良くない」とした。
22日 イザナギ、イザナミは改めて天の御柱の周囲を周り、最初にイザナギが口を開き、次いでイザナミが答えて契りを交した。そして、生まれた子が八つの島、大八島(おおやしまの)(くに)である。そして次々と国生みをする。 吉備(きびの)小島(こじま)小豆(あづきしま)島、大島、(ひめ)(じま)()()(しま)、そして両児島(ふたごのしま)であり国生みは終了した。
23日 註 
大八島(おおやしまの)(くに)
1.淡路之穂之狭(あわじのほのさ)(わけ)(しま)(淡路島) 
2.伊予之二(いよのふた)名島(なのしま)(四国)

3.隠伎之(おきの)三子(みつごの)(じま)(隠岐島) 
4.筑紫(つくしの)(しま)(九州)

5.伊伎(いきの)(しま)(壱岐)
6.
津島(對馬)

7.()渡島(どのしま)(佐渡島)      
8.大倭(おおやまと)(とよ)(あき)津島(つしま)(本州) 
 

24日

天安河原
どうしてアマテラスを岩戸から連れ戻すか、神々が話し合いをしたとされる場所。宮崎県西臼杵郡高千穂町

絵島
淤能碁呂島の候補地「絵島」、淡路島の北に存在。沼島の上立(かみたて)神岩(がみいわ)
淤能碁呂島の候補地。淡路島の南方。
途方もない名前の神々 途方もない名前の神々
25日 国生みを終えた後は次々と神を生む。 大事(おほこと)忍男(おしおの)(かみ)石土毘(いはつちび)古神(このかみ)――石や土の神格化
石巣比売(いはすひめの)(かみ)―石や砂の神格化
大戸(おほと)()(わけの)(かみ)天之吹男(あめのふきおの)(かみ)――屋根葺きの神格化、
大屋毘(おおやび)古神(このかみ)――家屋の神格化、

風木津別之(すざもつわけの)忍男(おしおの)(かみ)大綿津(おほわたつ)(みの)(かみ)――海の神

(はや)秋津(あきづ)日子(ひこの)(かみ)速秋津比売(はやあきづひめの)(かみ)――水戸(みなと)に関わる神

26日

さらに、(はや)秋津(あきづ)日子(ひこの)(かみ)速秋津比売(はやあきづひめの)(かみ)により河口分担の為に生まれたのが沫那(あわな)(ぎの)(かみ)沫那(あわな)(みの)(かみ)頬那(つらな)(ぎの)(かみ)頬那(つらな)(みの)(かみ)天之水分(あめのみくまりの)(かみ)国之水分(くにのみくまりの)(かみ)天之久比奢母(あめのくひざも)(ちの)(かみ)国之久比奢母(くにのくひざも)(ちの)(かみ)など水に関わる神であり、私はこれを書きながら、その途方もない命名に驚嘆する次に生まれた支那(しな)都比(つひ)古神(このかみ)は風の神。木の神様の名前は、久久(くく)()(ちの)(かみ)

山の神は、大山津(おおやまつ)(みの)(かみ)。野の神様の名前は、鹿屋野比売(かやのひめの)(かみ)、別名まであり()(づちの)(かみ)と言う。

大山津(おおやまつ)(みの)(かみ)()(づちの)(かみ)が生んだのが天之狭土(あめのさづちの)(かみ)国之狭(くにのさ)(づちの)(かみ)、次に天之(あめの)狭霧(さぎりの)(かみ)国之(くにの)狭霧(さぎりの)(かみ)天之(あめの)(くら)(どの)(かみ)国之(くにの)(くら)(と゜の)(かみ)大戸惑子(おおとまといの)(かみ)大戸惑(おとまと)女神(ひめのかみ)である。

27日 次に生んだのは、鳥之(とりの)(いわ)(くす)(ふねの)(かみ)(別の名は天鳥船)大宜都比売(おおげつひめの)(かみ)火之夜芸速男(ひのやぎはやおの)(かみ)(別の名は、 火之R毘(ひのかがび)古神(このかみ)火之迦(ひのか)具土(ぐつちの)(かみ))。この子を生んだことで、イザナミは女陰(ほと)を焼かれて病み臥せることとなる。
28日 その病床での吐瀉物から生まれたのは、金山毘(かねやまび)古神(このかみ)金山毘売(かねやまびめの)(かみ)、糞から生まれたのが、波邇夜須毘(はにやすび)古神(このかみ)波邇夜須毘売(はにやすびめの)(かみ) 次に尿から生まれたのが弥都波能売(みつはのめ)(かみ)和久産(わくむ)()(ひの)(かみ)。この神の子は豊宇氣毘売(とようけびめの)(かみ)イザナギ、イザナミの生んだ神々は、14島、神は35柱であった。イザナミは火之神を生んで遂に亡くなってしまった。
29日 以上の系譜を一覧表にしてみよう。神々の系図である。

イザナギ・イザナミで35柱の神誕生
―大綿津見神(海の神)

イザナギ命 
――大山津見神(
山の神)――鳥之石楠船神(天鳥船)

イザナミ命
―大宜都比売神(
食物の神)
--火之夜芸速男神(
火の神)など

イザナミの死を悲しむ中で8神誕生(後述)

()沢女(きさはめの)(かみ)    ――建御雷之男(たけみかづちのをの)(かみ)(剣の神)など。

30日 イザナギ黄泉国へ行き、そして帰還する。帰還したイザナギが穢れを祓った時に生まれた神々は12神である。底津(そこつ)綿津(わたつ)(みの)(かみ)中津(なかつ)綿津(わたつ)(みの)(かみ)上津(うはつ)綿津(わたつ)(みの)(かみ)

衝立(つきたつ)船戸(ふなとの)(かみ)八十(やそ)禍津(まがつ)(ひの)(かみ)大禍津(おおまか゜つ)(ひの)(かみ)
31日

神直毘(かむなおびの)(かみ)大直毘(おおやおびの)(かみ)伊豆能売(いずのめの)(かみ)

底筒之男(そこつつをの)(かみ)中筒之男(なかつつをの)(かみ)上筒之男(うはつつのをの)(かみ)