桜と出家遁世の西行 その2

この卯月は私の満80歳の誕生月である。目出度いのか、長生きし過ぎたのか分らない。だが、こうして生かされている。「死のうは一定(いちじょう)」、日々、精一杯生きてゆくのみだ。「往生は一定」なのである。卯月と言えば、桜、西行さんを思い出す。そこで「桜」をモチーフにして色々と歌を選んで日々楽しむこととした。余計なコメントは避ける。 平成2341日 岫雲斎圀典

平成23年5月度

1日

出家遁世の
西行の不安

山家集728

鈴鹿(すずか)(やま)うき世をよそにふり捨てていかになりゆくわが身なるらん 

2日 山家集723

そらになる心は春のかすみにて世にあらじとも思ひ立つかな 

3日 山家集1416

捨てたれど隠れて住まぬ人になればなほ世にあるに似たるなりけり 

4日 山家集1417

世の中を捨てて捨て得ぬ心地して都離れぬわが身なりけり    

5日 山家集725

柴の(いお)と聞くはくやしき名なれども

世に好もしき住居(すまい)なりけり    

6日 山家集38

(ぬし)いかに風わたるとていとふらんよそにうれしき梅の匂ひを    

7日 山家集486

わがものと秋の梢を思ふかな倉の里に家居(いえい)せしより     

8日 山家集571

わりなしや氷る(かけい)の水ゆえに思ひ捨ててし春の待たるる     

9日 山家集1126

白川の関屋を月のもる影は人の心を留むるなりけり     

10日 山家集800

朽ちもせぬその名ばかりをとどめ置きて枯野の(すすき)形見にぞ見る  

11日 山家集1128

枯れにける松なき跡の武隈(たけくま) みきと言ひてもかひなかるべし  

12日 山家集1129

踏まま()紅葉(もみじ)の錦散りしきて人も通はぬおもはくの橋

13日 山家集1442

聞きもせず(たば)稲山(しねやま)の桜花吉野のほかにかかるべしとは   

14日 山家集876

闇晴れて心の空にすむ月は西の山辺や近くなるらん   

15日 山家集895

鷲の山うへ暗からぬ嶺なればあたりを払ふ有明の月    

16日 山家集1045

馴れ来にし都もうとくなり果てて悲しさ添ふる秋の暮かな   

17日 山家集1158

思ひやる心は見えてで橋の上にあらそひけりな月の影のみ  

18日 山家集782

今宵こそ思ひ知らるれ浅からぬ君に契りのある身なりけり  

19日 山家集1227

かかる世にかげも変らずすむ月を見るわが身さへ恨めしきかな  

最後の歌を書きとめよう
20日 山家集1515

(うつつ)をも(うつつ)とさらに思へねば夢をも夢と何か思はん     

21日 山家集1327

心から心にものを思わせて身を苦しむるわかせ身なりけり  

22日 山家集1320

いとほしやさらに心のをさなびて(たま)切れらるる恋もするかな  

23日 山家集912

うかれ出づる心は身にもかなはねばいかなりとてもいかにかはせん 山家集912 

24日 山家集710

あはれあはれこの世はよしやさもあらば来ん世もかくや苦しかるべき 

25日 山家集68

花見ればそのいはれとはなけれども心のうちぞ苦しかりける  

26日 山家集66

吉野山こずえの花を見し日より心は身にも添はずなりにき 

27日 山家集1131

とりわきて心もしみて冴えぞわたる衣河見にきたる今日しも  

28日

終宵(よもすがら)嵐に波をはこばせて    月をたれたたる(しお)(こし)の松 

29日 山家集1515

現をも現とさらに思へねば夢をも夢となにか思はん   

30日 山家集1520

うらうらと死なんずるなと思ひ解けば心のやがてさぞと答えふる