凋落は避けねばならない 御手洗富士夫 キャノン会長 

日本経済は凋落の淵に直面している。

いつまでも底を打たない少子化により、人口は減少に転じ、社会保障制度の先行きに対する不信感もあって国内市場は縮小傾向にある。

シャッター商店街や郡部の過疎化に見られるように地方経済は疲弊している。

さらに働き手が減り、経済を底支えしてきた地場産業や中小企業は後継者や従業員の確保に四苦八苦している。

一方高齢化とともに、医療・介護・年金といった社会保障費は毎年約一兆円の規模で増加している。こま結果、国と地方を合わせた債務残高は、毎日300億円ずつ増え、国民一人当たりでも既に600万円を越えている。 

このところの政治的混迷とその結果としての政策の不在が事態の悪化に拍車をかけている。

中国をはじめとする新興国の台頭により世界の経済地図は大きく塗り替えられている。しかし、日本は「第三の開国」に踏み切れず、海外市場の開拓や対日投資拡大といった形で新興諸国のダイナミズムを内に取り込めないである。

借金が税収を上回るという財政危機の打開策についても糸口さえ見出せないでいる。さらに世界最高水準の法人税率、実現可能性を殆ど無視した環境規制、硬直化した規制・制度などが経済活動の担い手である企業の手足をがんじがらめに縛っている。

凋落は、なんとしてでも避けねばならない。そして、その処方箋は明らかである。 

先ずは、経済連携協定の締結の推進である。TPP参加を手始めに、アジア太平洋自由貿易圏の実現に向け、農業の産業化を進めつつ、多国間協議に臨んでいかなければならない。 

第二は、財政規律への信頼回復である。消費税率の引き上げはその第一歩に過ぎない。歳出構造の見直しは勿論のこと、債務残高の増大の最大要因である社会保障のあり方について早急に国民的コンセンサスを作り上げていく必要がある。 

第三は、人材の育成である。労働力人口が減少する中、一騎当千となる人材が求められている。留学機会を増やすことは勿論、外国人就労や移民を含めて、海外から優秀な人材を積極的に招き入れる方策を、国と企業が協力して講じていかなければならない。 

日本がこのまま凋落の淵に沈むのか、それとも不死鳥のように蘇るのか。

それはひとえに、これからの施策を決断し、実行するか否かにかかっている。 

このところの政権の短命化の下、見通しは決して明るくないが、政治の強力なリーダーシップを期待してやまない。