日本はなぜ五里霧中にあるのか 西木正明 作家 

国家戦略の無さ。それに尽きるのではないでしようか。実の処、これは明治前半の一時期を別にして、日本という国の宿痾のようなもので、今に始まったことではありません。

例えば、日米開戦にいたる流れの中で、昭和151123日、その時点での状況分析と対応を目的に、陸軍参謀総長杉山元が発議し、26日の四相会議で、東条英機陸軍大臣が提案、実施された政府統帥部連絡懇談会(第三次近衛内閣成立後の昭和16721日からは、開催場所を総理官邸から宮中大本営に移し、大本営政府連絡会議に呼称変更)の、議論の内容がその好例です。

そのやりとりの内容を、言い出しっぺの杉山元が「杉山メモ」の形で詳細に書き残しています。当時の時局のうつろいを知る上で、まことに貴重な資料となるものですが、その一方で、読む程に絶望的な気分にさせられるものでもあります。

毎回いろんな発言がありますが、その殆どは自らが在籍する組織、或は発言者本人の思惑を踏まえたものばかりで、これが日本という国家の頂点に立つ者たちの議論なのかと、暗澹たる思いにとらわれます。 

この会議で論じられた事案の中で、特に緊急かつ重要なものは、折にふれて開催される御前会議の場で天皇に報告されますが、その際、発せられる陛下の疑問に対し、出席者の奉答のいいかげんさにも呆れさせられます。

折々の国際情勢など時局の的確な分析と、その先の見通しを踏まえた戦略の欠落。相手の出方を無視した独りよがりの方針設定。こうしたことの繰り返しが日米開戦と、結果として国家滅亡の危機となる敗戦に繋がりました。 

ここ数年の日本の政治的状況を見るにつけ、杉山メモに見られる危機感のなさの再来のような気がしてなりません。

故に、これを克服する方策は、現在の状況を冷静に見据えた戦略の構築と、荒療治をも厭わない実践しかないと思います。