理念がないからダメになる 吉本隆明 評論家 

今の政治がダメなのは、どの政党も根本に自らの理念を持って行動していないからです。

だから民主党はマニュフェストを掲げていながら、様々な批判にさらされると直ぐに動揺して、それらを実行に移せない。

野党も与党の政策に一々反対しますが、確固とした理念の下にそうしているわけではないから、すぐに批判のための批判になってしまう。

これでは政治が優柔不断で曖昧模糊となるのは当然です。 

例えば、日本には自由・平等といった基本的人権を保障し、「国際的な紛争を解決するのに武力を使わない」と謳った憲法があるのですから、それらの理念の実現を、国民にも諸外国にも、はっきりと唱える政党があってもいい。寧ろ、九条のような憲法を持つ国は世界に日本しかないのですから、九条に書き込まれた「平和主義」の理念を根本に据えた政党が出てくるべきです。日本には世界に向けて「平和主義」を唱える権利と義務があります。 

然し、自民党から共産党まで国会を見渡して見ても、改憲、護憲と憲法については様々な意見を持っているのでしようが、現行の憲法の実現を求めて自らの政策を導き出し主張している政党はありません。

「平和主義」の理念を根本に据えれば、日本に何かと軍事的な協力を求めてくる米国に対しても、武力を背景に圧力を加えてくる中国に対してもモノが言えるはずです。

「私たちは、國際紛争に武力を持ち出さないと憲法で宣言しているのだから、あなたの国もそうして私たちと平和的な同盟を結びましょう」と呼びかければいいのです。勿論、すぐに「ああそうですね」と云って平和条約を結んでくれる国はなかなかないでしようが、「私たちは國際紛争を武力で解決しないことに決めた」という理念を掲げられて、今や引け目を感じるのは日本以外の国でしょう。 

中国だったら、基本的人権や、「平和主義」をしつこく主張すればいいのです。今、中国は共産党が独裁体制を敷き、あらゆる産業に指令を出すことで、経済発展していますが、戦中派の私から言わせれば、そのような体制は、殆どファシズムです。戦前の日本でも、軍部が牛耳った政府が「総動員体制」を築くことで、経済発展を遂げようとしました。 

このままでは、中国もそのうち、かってのファシズム国家がやったように、軍事力と経済力にものを言わせて周辺国に言うことを聞かせるような国家になっていくことでしょう。日本が執拗に理念を持って相対すれば、それを食い止められるかもしれません。

日本人が保持し世界に向けて呼びかけるべきは、やはり九条の「平和主義」なのではないでしょうか。