「日本的なるものの再生」 日枝久 フジメデイア会長 

「静かなる有事」が日本を覆い、「安心社会」が崩壊し始めている。 

不安定な政治・財政破綻・少子高齢化・雇用不安・そして無縁社会。

アメリカの新聞には「病んだ国日本」という見出しまで躍るようになり、日本中に言いようのない閉塞感が漂っている。 

しかし、何より深刻なのは、戦後、高度経済成長下で、カネ・モノが価値基準となり、日本人の心から「日本的なるもの」が無批判・無原則に捨て去られたことではないか。 

アメリカン・スタンダードが全て悪いわけではないが、過度の競争社会によって、家族や地域の絆が薄れ、至る所で日本の良き伝統が消えてしまっている。 

「礼節・気概・寛容・品格・愛国心・自己犠牲」と言った価値観は日本人の長所であり、明治以来日本の進歩を支えてきた力である。 

「武士道精神」と云って良い。そうした美徳は日本人の矜持でもあり、日本人のすぐれた資質として世界からお手本とされた。 

今、日本と日本人に求められることは、政治・経済・社会・文化、そして経営等あらゆるレベルで「日本的なるもの」を甦らせることである。 

翻って、日本の政治を見ると、政権交代して一年半、この間残念ながら、日本のあるべき姿、進むべき将来像を示し得ていない。

政権は、社会保障制度と税の一体改革、外交・安全保障等の喫緊の課題への対処はもちろんだが、日本のあるべき姿についてのグランドデザインを早急にまとめ、国民に示すことが必要ではないか。 

「病んだ国」などと言われ、悲観視する必要はない。日本には、世界に誇れる科学技術と物づくりがある。教育を通じて皆が日本人の美徳を取り戻せば「自助・共助・公助」の精神も自ずから育まれていくだろう。 

世界から尊敬されるジャパニーズ・スタンダードを創造し、世界に自信を持って発信していかなければならない。