危機意識を意欲に変えて 斉藤 孝
「日本は教育立国である」。
この当たり前であった命題が現在大きく揺らいでいる。
中高生の家庭での勉強時間は中国、韓国より遥かに短い。ゆとり教育と少子化に伴い、大学生の学力が年々低下していることは、大学教員の多くが実感していることだ。
しかし、学力低下以上に深刻なのは、意欲、体のエネルギー、リーダーシップの低下だ。
「このままでは日本は沈没する」と私はぞっとした思いを抱いている。
では、どうするか。
少子化対策だが、まずは、強い危機意識の共有が必要なのではないか。
国民の向学心、向上心と国家的な危機意識の間には強い関係がある。
植民地化の危機感が幕末明治の主燃料としてあった。
敗戦という危機感が復興と高度成長の意欲につながった。ソ連のスプートニツク成功によるショックが米国の教育改革の源となった。
昨年来の尖閣・北方領土問題は危機意識をもたらした。GDPも第二位から陥落し国土も買われている。
この客観的現状を小中高大生に認識させることは大人の責務である。
いたずらに敵愾心を煽るのではなく、向上心に火をつけるのがポイントだ。
具体策としては、「学問のすすめ」と「論語」の音読を小中学でカリキュラムに組むことだ。
一身が独立して一国が独立する。
人の貴賎は学ぶと学ばざるとによるという福沢の主張を、日本人の意欲と気概の背景としたい。
孔子の向学心とバランスのとれた人間形成を改めて国民の気質としたい。
「プロジェクトX」のDVDを、小学生四、五年生の道徳や社会科で活用し、世のため未来のために働く喜びと気概に触れさせたい。学校に頼らずとも、家で音読し、視聴し、議論したい。
新聞を切り抜き、ノートに貼り、コメントを付け、人に話す学習法は絶大な効果がある。世の中を意識する社会性や好奇心が急速に育つ。新聞宅配制という世界に誇るべきシステムを最大限活用すべきだ。
国粋主義や排外主義は意味がない。貿易立国なのだし、自国がベストを尽していないのが問題なのだ。必要なのは、冷静な現状認識に基づく危機意識のうねりを積極的な意欲へと転化することだ。
そうすれば、本来の真面目さや粘り強さが生きてくる。
国際的な競争で鍛えられ成長するサッカー日本代表のように。