うつ病にかかっている国 香山リカ 

ひとことで言えば、国家、社会が全体として将に「うつ病」にかかっているからだと思う。

うつ病の基本的な症状とも言える「何事も悲観的にしか考えられない」、「後悔、ノスタルジーなど過去にばかり気持ちが向く」という傾向が強まっており、うつ病の背景に見られると言われる認知のゆがみや心理的視野の狭窄化も顕著である。 

即ち、「100かゼロかと極端な選択をしたがり、曖昧さを担保できない」、「他人の言動を被害妄想的にしか受け取れず、誰のことも信用できない」、「狭い視野で自分のことだけ考え、それを相対化することが出来ない」と言ったことだ。 

これらが個人のレベルではなくて、国家的規模で起きているのが今の日本と言える。この場合、個人にとっての「他人」に相当するのは、中国、韓国などのアジア諸国であることは言うまでも無い。またエジプトの反政府デモへの驚くべき無関心を見ても、社会全体としての視野が異常に狭くなっていることが覗える。 

では、国家に効く抗うつ薬とは何か。これは矢張り、「このままでは悪い方に進むばかり」と言った不安の感情に押し流されることなく、理性の力でこの認知のゆがみや視野の狭窄を何とかするしかないだろう。

私が抱いている警戒心は合理的なものではなく、認知のゆがみから起きていることだ、と先ずは頭で理解するのだ。「とにかく前向きに行こう」と言った根拠のないポジティブシンキングは、百害あって一利なし。

ただ個人のうつ病の場合は、薬や認知療法と並んで「先ずは仕事を2ヶ月休んで」といった休養が欠かせない。極端な言い方だが、日本も全員に数ヶ月の休養期間を与えてみてはどうか。

外交もストップして「ひと月、鎖国します」くらいの英断が必要かもしれない。

そして、国内の信頼関係を取り戻してもう一度、再スタート。この「国家的うつ病」に効く特効薬はないので自壊を免れようとしたらそれくらいのことをしなければならないのだ。