大徳寺
寂しければ大徳寺にもゆきて見つ
時ならぬ雪降るがまにまに 吉井 勇
春泥や高桐院を尋ねあつ 伊志井 寛
紫野、ここの濡れた石畳を歩くと風情がある。
確かこの山門は、金毛閣と言った。
利休居士の木造をあげて秀吉の怒りをかった現場である。
利休居士は、侍だなと思った。辞世の句が凄い。
人生七十 力囲希咄 吾道宝剣 祖仏共殺
今此時ぞ天に抛
ひっさぐる我が得具足の一つ太刀
いまこの時ぞ天になげうつ 利休
武士と違わぬ精神の方だ。
七十年のわが生涯を顧みると、そこには悲喜・苦楽・得失・栄辱、
まことにさまざまなことがあった。
しかし、その人生ともおさらばじゃ。
といって、今のわしには生への執着もなければ死の恐怖もなく、
また恩怨もなければ愛憎もない。
力囲!! 咄!! エイッ!! クソッ!! 一切合財、これでご破算じゃ。
そしてわしのこれから超人する世界、そこには悲喜も苦楽も、
得失も栄辱も、さらには迷悟も生死もない絶対の世界である。
さあ、これからその世界で自由自在に遊戯三昧をしようぞ。
[人物叢書 新装版 千利休;芳賀幸四郎(吉川弘文館)]より
岫雲斎