57日 先考と先妣 その三

 そういう意味で、私は先考と亡き父を呼ぶことに非常な意義を感じます。それと同時に母についてもそうであります。先妣という文字は、ならぶという意味であり親しむという意味をも含んでおる。亡き母は亡き父の配偶である。そういう意味でも妣という文字を使うのでありますが、それと同時に母というものに限りなく親愛を覚える、その意味も含めておる。母が亡くなって自分が母の当年のような年頃になる、或いは自分の連れ添う女房が亡き母の年頃になる。自分の姉や妹がぼつぼつ母に似てくるという年頃になって初めて、母が父に連れ添ってどんなに苦労し、どんなに尽したかということがわかる。また母というものの親しき懐かしさがしみじみとわかる。心からのものを産み、ものを育てものに親しむということができるようになった。