4月の万葉集は「大伴家持」
春の野に 霞たなびき うらがなし この夕かげに うぐひす鳴くも 巻19-4290
春の憂い、春愁、純粋な叙情詩で、繊細な感性が伺える。山でも春の霞は春愁を覚える。
わがやどの いささ群竹吹く風の 音のかそけき この夕かも 巻19-4291
群竹林に風がサット吹き抜ける、カサコソ、カサコソと。家の竹林もそうだ、実感がある。細かい心、家持は繊細な方だ。春の憂いか、好きなリズムと語感。
もののふの 八十おとめらが くみ乱ふ 寺井の上の
かたくりの花のこと。私はこの花を登山中に探すのが好きだ。樹林の下に可憐で赤紫のきれいな花です。喜びに満ちた乙女の姿に相応しい。
春の苑 くれないにほふ 桃の花 した照る道に
来年は因幡から京の都に帰えれる、妻にも会える、田舎住まいから解放される。艶麗な思慕の歌と犬養教授は言った。
今造る 久邇の都は 山河の 清けき見れば
大養徳(おおやまと)恭仁大宮址は、木津川の恭仁大橋
から西北一帯余りの河北の大字例幣(旧瓶原町・現
天皇の 御代栄えむと 東なる 陸奥山に 黄金花咲く
巻18-4097
聖武天皇天平二年二月、造営中の東大寺大仏の塗金不足、陸奥の小田郡からはじめて金を産出し陸奥国守百済王敬福が黄金900両を献納。
なでしこが 花見るごとく をとめらが 笑まひのにほひ 思はゆるかも 巻18−4114
越中国庁址、 庭の中のなでしこの花は、奈良にある妻の笑みの美しさに通じている。妻との距離のなくなった、春の秀歌が生まれている。
玉くしげ 二上山に 鳴く鳥の 声の恋しき
国庁の伏木の台地は二上山の東麓、ほととぎすの頃、家持はほととぎすを愛好した。
布勢の海の 沖つ白波 あり通ひ いや毎年に 見つつ偲はむ 巻17−3992
立山の 雪し来らしも 延槻の 川の渡瀬 鐙浸かすも
巻17−4024
早月川渡渉の時の歌、当時立山はたちやま、早月川は延槻川と呼ばれた。豪快な奔流、馬の鐙が浸かるほどのスリルと感動か。