国字(和製文字)   日本海新聞 潮流 寄稿 平成18年5月2日 

日本に漢字が入ったのは四世紀末の応神天皇期、百済の王仁(わに)が千字文をもたらした。日本は縄文時代から「やまと言葉」だけで文字は無く漢字を利用した。万葉集は漢字の「音」を活用したが、「訓」を考案。
現在使用中の漢字が凡て中国からのものだと思う人があれば大間違い。古代から日本人が発明した和製文字は「国字」と言われ膨大なものが累積され国字辞典もある。

漢字は中国文化の産物だが明治以降、中国に無い素晴らしい術語国字を発明し、それらは日本から輸出されて現代中国・韓国の近代化に大いに役立った。明治時代、日本はアジアでいち早く西洋文明を積極的に導入し咀嚼したからである。その過程で、明治
20年迄に西洋文物を多岐に亘り国字に翻訳し一説では20万語と言われる。

中華人民共和国の中華以外の人民も共和国も日本製である。日本領海を侵犯した中国船「科学
1号」の科学も国字。今日の中国は日常用語から政治、制度、経済、法律、自然科学、医学、教育、文化用語に至るまで日本語からの輸入文字で満ち溢れ近代生活は日本語の上に成り立ち営まれていると言う。

数え上げると際限無いが膨大な西洋文物を明治人は実に適切な国字に翻訳しており祖先の見識と教養の高さに感動する。科学文明に関する西洋文物をすべて国字に翻訳して西洋文明を学んだのはアジアでは日本だけである。

その国字の一部を引用して見よう、日本ではそれまで無かった概念の哲学、社会、社会主義、経済、科学などを始めとして、国家、思想、国際、学校、学生、伝統、侵略、意識、現実、進化、理想、常識、改革、解放、闘争、運動、進歩、民主、同志、理学、物質、元素、分子、引力、電気、主観、客観、定義、命題、前提、演繹、帰納、郵便、銀行、概念、階級、社会科学、支配、批評、観念、唯物論、唯心論、印象、文明、交通、哲学、鉛筆、演説、会話、計画、原則、危機、情報、環境、化学、信用、王道、道場、等々である。

明治人の凄い造語力、現代人のように安易に、熟考もないまま英語を使用していない。
昨年
9月末日、日経新聞一面の論説副主幹の文中に、イッシュー(争点)と書いているのを発見して私は思わず吹き出した。初めから争点でいいのだ。これは他紙の論述にも多見される。21世紀の今なお英語の使用を知的とでも思うのか噴飯物である。

どうして素晴らしい日本語に自信がもてないのか、家庭内暴力でよいのにドメスチックバイオレンス、政党もバカみたいにマニュフェスト、政見公約で良い。

憐れむべきものを引用して見る、影響評価をアセスメント、内部関係者をインサイダー、納得診療をインフォームドコンセント、外部委託をアウトソーシング、提携をアライアンス等無数にある。

現代政治家、財界人、知識人、メディアが「和魂」も見識も喪失した将に亡国現象、今なお米国の占領下のようで、国語を失ったフィリピンのようにならない事を切望する。

立派な祖先を持ちながら戦後日本人はどうかしており、自国の主体性・独自性を放棄している。明治人は常に「和魂」という背骨を持っていた。一つの国で、漢字・カタカナ・平仮名が自由自在に国民全員が書けて話せる優秀な民族は世界のどこにも無い。

国語の身につかぬ幼少から英語を学ぶなど祖国喪失につながり真の国際人が育たない。祖国の歴史伝統と国語に自信を持ち日本文化を貫いたから二千年の発展があったことを忘れてはならぬ。

(鳥取市) 鳥取木鶏研究会 代表 徳永圀典