徳永の「古事記」その3 
「神話を教えない民族は必ず滅んでいる」

平成24年6月

1日 神生みを開始 多くの国を生み終えた二神は、神生みを始める。海の神の大綿津見神、山の神の大山津見神、野の神の鹿屋野比売神などを生んだ。 
2日 伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)伊耶那(いざな)(みの)(かみ)が生んだ神々

 

 

 

 

 

 

 

伊耶那美神

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伊耶那岐神

 

 

 

 

 

 

火之迦具土神(火の神)

大宣都比売神

鳥之石楠船神(天鳥船)

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速秋津日比売神

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速秋津日子神(河口の神)

大綿津見神(海の神)

 

風木津別之忍男神

大屋毘古神

天之吹男神

大戸日別神

石須比売神

石土毘古神

大事忍男神

 

鹿屋野比売神(野の神)

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大山津見神(山の神)

久久能智神(木の神)

志那都比古神(風の神)

 

 

 

 

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大戸或女神

大戸或子神

国之闇戸神

天之闇戸神

国之狭霧神

天之狭霧神

国之狭土神

天之狭土神

国之久比奢母智神

天之久比奢母智神

国之水分神

天之水分神

頬那美神

頬那芸神

沫那美神

沫那芸神



紫色の神々は「家」に関する神

赤色と青色の神々は「自然に関する神」。

茶色の神々は、「文化に関する神」に分類される。

註 
火之迦(ひのか)具土(ぐつちの)(かみ)(火の神)を切った太刀についた血から八神、亡骸から八神が生まれたとされる。

3日 伊耶那(いざな)(みの)(かみ)の「汚物」から生まれた神々

嘔吐から

金山毘(かねやまび)古神(このがみ)

 

金山毘売(かねやまひめの)(かみ)

糞から

波邇夜須毘(はにやすび)古神(このがみ)

 

波邇夜須毘売(はにやすひめの)(かみ)

尿から

弥都波能売(みつはのめの)(かみ)

 

和久産(わくむ)()(ひの)(かみ)

 

豊宇奇毘売(とようけびめの)(みこと)

然し、火の神、火之迦(ひのか)具土(ぐつちの)(かみ)を生んだ時にイザナミは大火傷を負う。病の床でイザナミの吐いたものからも、二神、漏らした汚物からも四神が生まれた。イザナミは火傷で亡くなってしまう。
4日 嘆き悲しんだイザナギは、妻・イザナミの遺体を比婆山(出雲と伯耆の境。伯耆は鳥取県西部)に葬る。そして、妻の命を失った契機を作った火之迦(ひのか)具土(ぐつちの)(かみ)の首を剣で刎ね殺してしまう。この時にも、剣についた血から後の「国譲り」で活躍する建御雷之男(たけみかづきのおの)(かみ)を含む八神が生まれた。火之迦(ひのか)具土(ぐつちの)(かみ)の亡骸からも八神の山の神が生まれている。
5日

伊耶那(いざな)(ぎの)(かみ)から生まれた神々

 

 

 

顔を洗った

時に生まれた

神々

川での

禊中に

生ま

れた

禍を

直す

神々

垢から

誕生した神々

右目

左目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須佐之男命

月読命

天照大神

上筒之男命

上津綿津見神

中筒之男命

中津綿津見神

底筒之男命

底筒綿津見神

伊豆能売

大直毘神

神直毘紙

大禍津日神

八十禍津日神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

から

 

 

 

 

 

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右腕輪

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辺疎神

 

 

 

 

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和豆

良比

能宇

斯能

 

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辺津

那芸

佐毘

古神

 

左腕輪

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奥津

奥津

那芸

甲斐

佐毘

 

 

 

 

 

 

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辺津

甲斐

羅神

 

 

 

 

 

 

 

 

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道之

長乳

 

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6日 イザナギ黄泉国訪問 火の神の誕生が「国や神生み」の目出度い雰囲気を一変させた。神話は遂に「死者の世界。黄泉国」へと舞台を移行する。イザナギは黄泉国まで妻を追いかけ、「まだ国作りは終わっていない。一緒に帰ろう」と誘いかける。
7日 「ここに殿(との)(さし)()より()()かへし時、伊邪那岐命、語らひ()りたまひしき「(うつく)しき()(なに)()(みこと)(あれ)(いまし)と作れる国、未だ作り()へず。(かれ)(かえ)るべし。」

この語調の快感は曰く言い難しく素晴らしい。感動さえ覚える。次ぎの
この返事も格調が痺れる程に高い。

8日 「然れども(うつく)しき()汝夫(なせ)(みこと)、入り来ませる事(かしこ)し。(かれ)(かえ)らむと(おも)ふを、(しばら)黄泉(よもつ)(かみ)相論(あげつら)はむ。我をな()たまひそ」。
然し、イザナミは「私はもう黄泉戸喫(よもつへぐい)(黄泉国の食べ物を口にする事)をしてしまったので帰れませんと言う。「でも折角訪ねて下さったのだから黄泉国の神に相談してみます。でも、その間、絶対に私の姿を見ないで下さい」と言い屋敷の中へ姿を消した。
9日 中々、戻らないイザナミに痺れを切らしたイザナギは、禁断を犯して屋敷の奥へと進んでしまう。そこで、眼にしたのは、全身にウジを湧かせ、頭に大雷(おおいかづち)、胸に(ほの)(いかづち)、腹には黒雷(くろいかづち)、陰部には(さく)(いかづち)など、八柱の雷神を居つかせているイザナミの姿であった。イザナギは驚き、逃げ出すが、イザナミは「よくも私に恥をかかせましたね」と怒り、黄泉国の醜女(しこめ)たちにイザナギを追わせた。
10日 醜女(しこめ)のほか八柱の雷神と千五百の軍勢も参加した追っ手を、イザナギは様々な方法で退散させるが、黄泉国の入口の黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)(松江市に入口が現存)で遂にイザナミ自身が追いついてくる。イザナギは大きな岩を入口に引き据えて妻と対峙する。すると、イザナミは「こんな事をなさるなら私は貴方の国の人々を一日に千人絞め殺す」と言う。対するイザナギは「それなら私は一日に千五百人が生まれるようにする」と答えた。
11日

黄泉国から脱出したイザナギは黄泉国で付着した(けが)れを落とし流す為、「筑紫(つくし)日向(ひむか)(たちばな)小門(をど)阿波(あは)()(はら)」の生い茂る川辺で禊ぎをした。水で体を洗うイザナギから落ちた垢、脱いだ衣服などから多くの神々が生まれた。そして最後に顔を洗った際、左右の目と鼻を洗った時に生まれたのが、天照大神
(左目から)月読(つくよみの)(みこと)、(右目から)須佐之男命(鼻から)の「(みはしらの)貴子(とうときこ)」であった。

12日 イザナギは、この三神の誕生を特に喜んだ。そして、天照大神には高天原(たかまがはら)を、月読命には夜の世界を、そして須佐之男命には海原(うなばら)を与えて統治させた。イザナギ自身は、(おう)()の多賀に隠棲した。
13日

高天原にて

神話は、次世代へと進行して行く。父・イザナギの命により高天原の支配者となる天照大神、海原の支配者となる須佐之男命の話である。もう一人の月読命は夜の世界の支配者となり表舞台から去って行く。アマテラスとスサノオは、黄泉国から脱出した父・イザナギが日向の橘の河原で禊ぎをした時に生まれた姉妹である。
14日 父・イザナギから命じられたアマテラスは高天原を統治すべく天に上った。弟・スサノオは、頤ひげが胸元まで届くような風貌と年齢でありながら、「母・イザナミのいる堅州(かたすの)(くに)へ行きたいと」泣き暮らしている。余りに泣き方が激しく、山々の木は枯れ、川や海の水も枯れるほどである。父・イザナギは激しく怒る。
15日

そしてスサノオを葦原中国から追放してしまう。するとスサノオは、「母のいる所へ行く前に、姉・アマテラスに挨拶しょう」と高天原を目指す。その道中、周囲の山川が鳴動、大音響のため、アマテラスは「弟は悪事を企んでいる、この高天原を奪おうと思っている」と武装して待機した。

16日 何をしに来たのかと不審なアマテラスは問うと、スサノオは「母の国へ行くことを伝えにきただけだ」と言う。アマテラスは信用しない、「ならば、それが本当だという事をどう証明するのか」と言う。スサノオは、生んだ神を比べる「誓約(うけひ)」を提案する。
17日 姉妹の神は、高天原の「(あめ)安河原(やすかわら)」を挟んで誓約(うけひ)の儀式を行う。まず、アマテラスが、スサノオの「()(つか)(つるぎ)」から、多紀理毘売(たきりびひめの)(みこと)など三女神を生んだ。

次ぎにスサノオがアマテラスの勾玉から、正勝吾勝勝速(まさかつわれかつかつはや)日天之(ひあめの)(おし)()(みみの)(みこと)(天皇先祖)など五男神を生んだ。誓約(うけひ)とは、事の善悪やら正邪、真偽、吉凶などを判断する為の卜占(ぼくせん)の事である。

18日 「こう言う結果が出たら、こう解釈する」と事前に決めて置いて行う。アマテラスとスサノオの誓約の際には、なぜか事前の取り決めは無かったが、スサノオは「女神を生んだ私の勝ちだ」と一方的に勝利宣言をした。
19日 スサノオ暴れる 誓約(うけひ)の後、スサノオは勝利の勢いで悪行を繰り返す。アマテラスの耕田の畔を破壊、神聖な宮殿に汚物を撒き散らす、馬の皮を剥ぎアマテラスの機屋(はたや)に投げ込む。驚いた機織り女は、()(機織り道具)で陰部を突いて死ぬ。アマテラスはスサノオを恐れて天の岩屋に逃げ込む。太陽神が消えた高天原は暗闇になり悪神が騒然とする。
20日 八百万の神々が参集 太陽神不在となり、天地創造以来の危機に面した高天原、八百万の神々が協議を開く。中心となったのは、深謀遠慮の神・(おもい)(かねの)(かみ)、準備万端の上、美しい女神・天宇受売(あめのうずめの)(みこと)へ命じた、「岩屋の戸の前で踊りなさい」と。
21日 天宇受売(あめのうずめの)(みこと)は、(もすそ)の紐を陰部まで下げ、乳房も露わにして、天の香山の植物で身を飾り踊る姿に八百万の神々は、歓声をあげて笑った。アマテラスは、外の賑やかさを不思議に思い、岩戸を細く開いた。「私が居ないので真っ暗なはずだが、なぜ歓声が上っているのか」と問われた天宇受売(あめのうずめの)(みこと)「貴方以上の神がいらっしゃったので喜びの舞を踊っております」と答える。
22日 その時、天児屋(あめのこやねの)(みこと)(神託の小屋の神)()()(だまの)(みこと)(祭具の玉の神)八咫(やたの)(かがみ)を掲げてアマテラスの自分の姿を見せた。それが自分だと気づかず「自分より優れた神」を気にしてアマテラスが身をの外に乗り出した時、怪力の天手(あめのた)力男(ぢからをの)(かみ)がすかさず戸を開け、()()(だまの)(みこと)注連(しめなわ)縄で岩屋の中への逃げ道を塞いだ。こうして太陽神は復活したのである。
23日

スサノオ始末

八百万の神々は、スサノオに仕打ちする、髭と手足の爪を切って高天原から追放したのである。スサノオは地上に降りる途中、食物の神様である大宣津比売(おおげつひめの)(かみ)を殺してしまう。するとその死体から、(かいこ)、稲、(あわ)小豆(あずき)、麦、大豆の種が生まれた。スサノオは葦原(あしはらの)中国(なかつくに)へと降り立った。
24日 スサノオの変身

高天原を追放されたスサノオは出雲国へ下った。降り立った所の川に箸が流れてきたので上流に人が住んでいることを知った。訪ねて行くと、老夫婦が涙を流していて傍に娘がいた。話を聞くと、老夫婦には元々8人の娘がいた。大蛇に毎年一人ずつ食べられてしまったという。その大蛇とは、一つの胴体に八つの頭、八つの尾を持つという。一人だけ残った娘の名前は、櫛名田比売(くしなだひめ)であった。

25日 スサノオは、櫛名田比売(くしなだひめ)を自分の妻とすると言う条件で大蛇退治を約束する。そして、櫛名田比売(くしなだひめ)を櫛に変え、その櫛を自分の角髪に刺して保護する。更に老夫婦に「強い酒と、垣根を廻らせた八つの門を作り、門ごとに酒桶を置きなさい」と指示した。
26日 酒の匂いに誘われた大蛇が勇んで来て酒を飲み干して酔っ払ってしまった。その隙にスサノオは大蛇の頭を切り落とした。退治した大蛇の胴体から見事な「草薙(くさなぎの)(つるぎ)」が現れた。スサノオは之れをアマテラスに献上した。スサノオは須賀に宮殿を建てて櫛名田比売(くしなだひめ)と住む。
27日 その時、雲が立ち上がり、こんな歌を詠んだ。

  八雲立つ 出雲八重垣 (つま)()

     八重垣作る その八重垣を

28日 この宮で二人の間に生まれたのが、八島士(やしまじ)()(びの)(かみ)

(かむ)大市比売(おおいちひめ)との間には、大年(おおとし)(がみ)宇迦之(うかの)御魂(みたまの)(かみ)

八島士(やしまじ)()(びの)(かみ)の何代目かの天之(あめの)(ふゆ)(きぬの)(かみ)が娶った

刺国若比売(さしくにわかひめ)との間にできた子が大国主神である。

大国主命の又の名は、大穴牟遅(おほなむぢの)(かみ)、別名を、葦原色許男(あしはらのしこをの)神、八千(やち)(ほこの)(かみ)宇都(うつ)()(くに)(たまの)(かみ)の五つの名前を持つ。

29日 (とり)(かみ)()
高天原を追放されたスサノオが最初に降り立った場所である。出雲の()(かわ)=斐伊川の上流である。現在の船通山で鳥取県の山である。正確には県境である。

()(またの)大蛇(おろち)
斐伊川は流れ込む土砂が多く、川底が周囲より高い天井川で、昔から洪水が絶えなかった、その氾濫の恐ろしさの表現が八岐大蛇だとも言われる。
30日 ()()神社
大蛇を退治した後、櫛稲田比売と移り住んだ地とされる。スサノオと櫛名田比売(くしなだひめ)の二神が祭神である。縁結びの神。この宮は、櫛名田比売(くしなだひめ)の父が稲田宮主須賀之八(いなだのみやぬしすがのやつ)(みみの)(かみ)となり管理した由。

櫛稲田姫命像
須佐之男命の妻、壁画が八重垣神社にある。日本最古の壁画、重要文化財、巨勢金岡画、1100年以上前のものである。スサノオと稲田姫、そして隅っこにアマテラスが小さく画かれているのが不思議。

草枕神社
スサノオに酒を飲まされた八岐大蛇が酔っ払って横になった時、枕にしたとされる山。八口神社の直ぐ傍にある。雲南市加茂町神原。
八重垣神社
スサノオが稲田姫と須賀から移り住んだ地。二神を祭神とし縁結びの神社。松江市佐草町。

八本杉
退治した八岐大蛇の八つの頭を埋め、その上に杉を植えたとされる地。雲南市木次町里方。

揖屋(いや)神社
イザナミを祀る。黄泉比良坂から1キロ。松江市揖屋。

黄泉比良坂の千引岩
黄泉国の入口。この石で黄泉国への入口を塞いだ。松江市揖屋にある。