的確な国家戦略を 江崎玲於奈 

日本が五里霧中の状態に入った理由を一言で言うならば、世界の大きな変化に対処するべき国家戦略の欠如。脱するには的確な戦略、特にグルーバルな戦略が必要ということになります。 

この世界的変化をもたらしたものはイノベーション(技術革新)にほかなりません。その最たるものは、経済革命、そして社会革命までも引き起こしたインターネツトです。

これは言うまでもなく、世界各国、各地のコンピューター・ネツトサービスワークを様々な回線でつないだ世界規模のネツトワークであるだけに、グローバルな大競争時代を到来させることになりました。そこで、この競争をいかに戦うか、その戦略が国の将来を決することになります。

この点で、125日のオバマ大統領の一般教書演説は、124日の菅首相の施政方針演説より、この國際競争を大変意識し、この競争に勝つための国家戦略を述べています。

一方、菅さんの方は、国内の課題を重視し、それらを総花的に取り上げ、対応しておられます。知性派で、頭脳明晰な菅・オバマ両氏とも、演説は何れも難しい試験問題に対する模範解答と言ってよいでしょう。

ここで、戦略を立てるに当り、わが国にも参考になると思えますので、オバマ大統領の演説の一節を筆者の意訳で紹介してみましょう。

「政党や政略などよりも、より大きな直面する課題に手を取り合って挑戦しよう」(これは、わが国の議員達にも聞かせたい)

「世界中を明るく照らすだけの指導力を今後も維持できるかどうかにアメリカの将来がかかっている」。

「中国やインドという国も、必要な手を打てば、新しい世界の競争に参加できることを悟った。そこで彼等は低学年から数学と科学を重視した学校教育、科学研究と技術開発への積極的投資を行っている。最近になって中国は、世界最大の太陽エネルギー研究所や世界最高速のコンピューターを保持するようになった」。

「将来を勝ち取るための第一歩はイノベーションの鼓舞、激励。人びとの創造力を点火(スパーク)することにかけてはアメリカはどの国よりも優れている」。

「イノベーションは単に生活に変化を与えるだけのものではなく、生活の糧である」。

「アメリカの研究・開発水準の向上は不可欠。生物医学(バイオメディカル)研究、情報工学、クリーンエネルギー技術への投資。この成果は国の安全保障、地球の防衛、多くの新しい仕事の創出につながる」。

「スーパーボウルに勝利を収めた運動選手だけでなくサイエンス・フェアーでの勝利者たちも大いに賞賛されるべし」。

「韓国ではクラスルームの先生達は国家を築く人と尊敬されている。アメリカに於いても、先生方に一層の敬意を払うことにしょう。処で、次の10年間、退職される先生方の代わりとして、科学、技術、工学、数学などの分野で優れた10万人の先生方を新たにクラスルームに送りたい」。

「韓国の家庭のインターネツト・アクセスは今や我々ら勝るようになった。アメリカのインフラ・ストラクチャーの質は低下し今やDクラスとの評価である」。

処で、菅首相は「大学の基礎研究を始め科学技術振興予算を増額します」と言明しておられ、学者の我々は大変喜んでいます。しかし、増額すれば社会に富を築くイノベーションが、当然のこととして起こるのだ、と考えるのは戦略なき国の楽観論なのです。