鳥取木鶏研究会6月例会 平成2161 

(しょう) (てん)上水下(じょうすいか)  天水訟(てんすいしょう)

訟は、うったえる、せめるという字であります。成長すると子供は、色々と要求を始めます。その時には、あくまでもその訴えを聞いて、正しく教えてやるのが宜しい。うるさいからと言って好い加減にしたり、急いではなりません。

大象(たいしょう)に、作事(さくじ)(ぼう)()―事をなすには、始めを謀ることが大切である、とありまして事業を始めるのも教育と同じで、事業は始め、教育は幼少の時代を大切にしなければなりません。仕事を始めると色んな問題が起こってきます。これをきびきびと解決しなければなりません。これは一時的でなく将来に亘ってやらなければなりませんから、特に始めが大切であると教えておるのであります。 

.() ()上水下(じょうすいか)   ()水師(すいし) 

師の字は、もろと読みまして、もろもろの意味を要約したものであります。子供が成長すると、友達を求めて孤独から群居する。

集団生活になりますので、欲望、感情というものが複雑になって、いざこざ即ち争いが起こります。これを(もろ)と言い、やがてこの字を軍隊に使うようになりました。国家の安全の為には、防衛を必用とし軍隊を設置します。師は軍隊でありますから軍事戦争をも意味するのであります。

.() 水上(すいじょう)地下(ちか)  水地比(すいちひ)

比の卦は師と逆でありまして、くらべるという字であります。比べるから、すきな者は、互いに親しんで助け合い、いやな者を排斥する。だから感情が主になってどうしても偏向しやすい、そこでこの卦は、人情の機微を備えた面白い卦ということができます。

この時に大事なことは、卦辞(けじ)の「元永(げんえい)(てい)」ということであります。これは元亨利貞の元と、刹那的でいけないという永と、いつまでも変わらないという貞が大事な内容、道徳であります。 

比 その2

面白いのは、後夫凶(ごふきょう)―後夫は凶なり、とありまして、これはしっくりとしなかった者が形勢を見て、後から、のこのことやってくるであろうから、こういう者は注意しなければならない、という戒めであります。

兎角、比の字は悪い意味に使われます。これは、自分の感情、欲望、好みが主眼となる為に悪くなりやすい・朋党比(ほうとうひ)(しゅう)という言葉がありますが、これは好きな者同士、或いは利害を同じくする者が組んで他を排斥することを申します。比の卦は面白い卦であります。 

.小畜(しょうちく) 風上(ふうじょう)天下(てんか)風天小畜(ふうてんしょうちく) 

人間は、自らの中に、色々の能力、つまり才能とか、情操とか、知恵というものを持ちませんと、外にばかり走って機械化、唯物化します。そこで子供がある程度の年齢に達すると、内面生活、徳というものを蓄えるように指導しなければなりません、これが小畜であります。

例えば、少年を学校へやると、悪童と付き合って遊び回って勉強をしない、これではいけませんから、そこで家庭で、嫌がっても勉強させ、よい習慣をつけるように指導しなければなりません。これがこの卦の戒めであります。 

() (てん)上澤下(じょうたっか)  (てん)(たく)()

愈々成長して高等学校、大学を卒え、世の中に出て、社会生活、人間生活、人格生活、道徳生活を始めます。これが「履」であります。処が、社会生活というものは、色々と秩序、階層等がありますから、幼少の頃から蓄え修めた徳を、よく発揮しなければなりません。履は、ふむでありますから、先輩や友人の意見に従って進むことが大切です。

このように易の卦を順々に調べていきますと、我々の生長段階と、それに伴う個人生活、社会生活というものの基準、法則がはっきりと教えられます。実にうまく配列されていることをしみじみと味わうことが出来るのであります。 

(たい) 地上(ちじょう)天下(てんか)  地天(ちてん)(たい)

泰の卦は、外が陰で内が陽であります。例えばこれを生理機能で申しますと、内に活発な健康力を持っておって、外の表現は控え目である。或いは才能に富み、満々たる迫力を持っておるけど、一向にそんなことは外へ表さず穏やかに保っていく姿、これが「泰」であります。そういう意味でこの泰の卦はよくできた卦であります。

易者の看板は皆この泰の卦であります。()ってたった一度、上野不忍池畔で、泰と逆の「否の卦」を看板に書いておる易者を見たことがあります。慌てて書き誤ったのかなと思いましたが、易者の顔を見ているとそのようにも思えません。皮肉で書いとるなと感じまして、尋ねてみようとしたのですが、あいにく客が入ってきて商売が始まりましたのでやめました。その後も注意しておりますが泰の卦以外の看板を見たことがありません。 

() 天上(てんじょう)地下(ちか) 天地(てんち)()

泰とは逆であります。外は陽気で極めて活発に行動するけれども、内には大したエネルギーを持っておりませんから直ぐ行き詰る。

或いは頭もよく、弁も立つ、然し人間の内容に立ち入って調べて見ると、能力がなく見かけ倒しである、というのがこの否の卦の特徴であります。否は否定、否決等をあらわします。