625日 臨終の()

 天童正覚臨終の()である。何という美しく、清く、大きく、神秘な作であろう。

 夢か幻か、病眼に浮かぶ幻の花か、

 わが六十七年の生涯よ

 いま我れ世を去るその様は、

 くっきりと、空の青、水の青にも染まず浮かんで

 いた白鳥が、一瞬その影を没して、水や空、

 空や水、 ただ水天(すいてん)一碧(いっぺき)の如きである。

天童正覚は有名な宏智禅師、南宋曹洞禅の大宗である。師は浙江の天童山(景徳寺)に住むこと三十年、従学するもの千を超え、道化(どうか)四方に振うた。 百朝集