中国経済が7月に崩壊

「最近、中国政府内部で、『中国経済が7月に崩壊する』という衝撃の論文が話題になっています。習近平主席や李克強首相にも回覧されたと聞いています」こう証言するのは、ある中国国務院関係者だ。


中国国務院とは、北京にある中国の中央官庁の総称である。その国務院傘下の組織で、発展研究センターという国営の経済シンクタンクがある。内部に12の研究部や研究所を擁し、中国経済の分析や提言を行っている政府の一大研究機関である。


ここの所長は、大臣と同格の地位を与えられるなど、中国国内での影響力は計り知れないものがある。また昨今、中国が日本を追い越して世界第2位の経済大国にのし上がったのに伴い、このシンクタンクの各種発表や分析は、世界の中国経済分析の大事な指標となっている。


冒頭の国務院関係者が続ける。


「その衝撃の論文を書いたのが、中国経済分析では定評のある発展研究センターのL副所長だったため、国務院が大騒ぎになったのです。L副所長はこれまで、共産党機関紙『人民日報』に100篇以上の論文を掲載するなど、中国経済分析の第一人者です。習近平主席や李克強首相の有力な経済ブレーンでもあります」

本誌は、その論文を入手した。全文37ページにわたる詳細なもので、標題は「国務院L(原文は本名)博士内部報告」となっている。以下、その核心部分を訳出しよう。

中国は2015年までに、大きな経済危機に直面するであろう。

('08年に)アメリカ発の金融危機が起こったが、中国発の経済危機は、まだ爆発していない。中国の銀行もまだ破綻していない。


ではいつ中国発の経済危機が起こるのか。私はズバリ、今年中と見ている。その主な原因は、不動産バブルの崩壊と、地方債務危機だ。この二つは、密接に結びついている。

二つ目の原因は、国際的な要因だ。これまで中国が高度経済成長を持続できたのは、大量の国外のホットマネーが中国国内に流入し、投資バブルを生み出していたからだ。

この現象はいまも続いている。だが中国経済がひとたび傾き始めたとたんに、海外からの投資は一斉に引いてしまうだろう。?

第三の原因は、政治的な要因だ。今年、政権交代が行われた。政権交代の1年前から、政府は何事も穏便に済ませようという、事なかれ主義に陥った。そして臭い物にはフタをした。だがいずれ、雪だるま式に大きな危機となって爆発するだろう。?

爆発が本格化する前に、(習近平の)新政権が発足してすぐに、中国経済のバブルを破壊してしまうという選択肢もある。バブル崩壊には痛みを伴うが、新政権の責任ではなく、(胡錦濤の)旧政権の責任であることは誰の目にも明らかなので、現政権への責任論は起こらないだろう。?

ともあれ、(習近平の)新政権が発足して3ヵ月から5ヵ月経ったあたりで、様々な問題が噴出し、経済危機が起こるに違いない。具体的に言えば、今年7月か8月に、経済危機となる確率が高い。?

中国経済はこれまで、9年から10年に一度、谷底を打ってきた。(建国した)1949年、(大躍進運動の)'57年、(文化大革命の)'66年、(毛沢東死去の)'76年、(天安門事件の)'89年、(アジア金融危機の)'98年だ。本来なら続いて'08年から'09年にかけて(世界的金融危機で)不況が起こるはずだったが、(4兆元の緊急財政支援で)先延ばしにした。だがこれ以上は、もう先送りできない。(建国以来の)60年に一度の大不況が押し寄せるかもしれない。?

ともあれ今年、中国で経済危機が爆発する。中小企業は倒産し、銀行は破産し、地方政府は破綻する。これがわれわれが直面する近未来の状況なのだ。?

さらに、経済危機に加えて、社会危機もやって来る。わが国の社会は病んでいるので、発熱している。?

第一の熱は、公務員熱だ。いまや倍率は数千倍。なぜ若者はそれほど公務員になりたがるのか。公務員はカネと権力と勢力と保障がある。だが公務員熱が高まるほど、国家の改革は後退する。?

第二の熱は、国有企業熱だ。国栄えて民滅ぶ。中央政府の管理下にある国有企業の売上高は、民営企業上位500社の売上高の総計と同じだ。土地、資源、資金……国有企業が価格を決定し、利益を独占する。だがその結果、改革は後退していく。?

第三の熱は、不動産熱だ。いまや全国民が不動産熱に浮かれている。(白物家電の)ハイアールや(電機メーカーの)TCLまで不動産開発に躍起になっている。こうした会社の社長に、「なぜ門外漢の不動産業に進出するのか?」と質問すると、「あなたこそなぜ手を出さないのか?」と逆質問される。

第四の熱は、投機熱だ。不動産に投機しない者は株に投機し、株に投機しない者は農産品に投機する。だが中国株は、政府幹部が情報を独占しているので、8割から9割の一般投資家は損をする。高利貸も大流行で、これはもう病気だ。?

第五の熱は、移民熱だ。いまや成功するとすぐに国外へ高飛びする。これが中国社会の現実だ。?

経済危機と社会危機の到来は、必ずしも暗澹となることではない。人には禍福があり、月には満ち欠けがあるものだ。暴風雨の後には美しい虹がかかるではないか。?

逆説的だが今年、中国が経済危機に見舞われることは、吉事と思いたい。なぜなら、短期的なウミを出すことによって、長期的な発展に向かう機会となるからだ。そして再び、改革を加速化させるだろう。?

加えて、中国を取り囲む国際環境も、険悪になりつつある。周辺諸国で中国の友人は、ますます減っているではないか。?

(胡錦濤時代の)10年間、政府は「調和のとれた社会」だとか「科学的な発展を成し遂げる」などとしきりに強調してきた。だが、実際は貧富の格差が拡大した10年だった。そのため、改革を先延ばしにしてきたツケが出てきているのだ。

もはや中国の高度成長の時代は終わった。2015年には7%成長となり、'20年には5%まで落ち込むだろう。経済成長の減速で、多くの問題が噴出し、企業はバタバタと倒産するに違いない。これが中国の近未来の現実なのだ。?

もう誤魔化すことはできない以上である。?

これは"敵国"による中国批判ではなく、習近平主席のブレーンが、内部で書いていることなのだ。それだけに、衝撃的である。本誌は事実確認を取るべく、筆者とされるL副所長のオフィスに電話をかけ続けたが、締め切りまでに応答はなかった。?

実際、3月に習近平政権が発足して以降、中国経済にマイナスの影響を与える事象が、連日起こっている。今年第1四半期のGDPの成長率は、前期比マイナス02ポイントの77%まで減速した。?

4月に入ってからは、周知のように鳥インフルエンザが中国全土を襲っている。425日現在、112人が感染し、23人が死亡した。24日には台湾にも感染者が飛び火し、10年前のSARS騒動と同様のパンデミックになってきた。

420日には、四川省で5年ぶりとなる大地震が発生し、200人を超す死者・行方不明者を出した。北京在住ジャーナリストの胡小兎氏が語る。?

「今回の地震で100億元(1600億円)以上の損失が出たと四川省政府は試算しています。鳥インフルエンザに関しては、今後、人から人への感染が確認されれば、SARSの被害総額179億ドル(17000億円)並みの被害が出るかもしれません」

423日には、新疆ウイグル自治区で、ウイグル族と警察との抗争が起こり、21人が死亡した。こうした混乱も、地方経済の疲弊と無関係ではない。?

新著『?中国台頭の終焉』で中国経済危機説を唱えた元経済産業省北東アジア課長の津上俊哉氏が語る。

「このL博士の論文には、経済学で言う当たり前のことが書いてあるに過ぎないのに、これまで中国政府は危機を認めて来ませんでした。L博士が述べているように、薬物依存症のような投資依存の悪循環をここで断ち切らないと、数年後には習近平体制を揺るがす真の危機が、中国に到来するでしょう」

7月までもう2ヵ月しか残っていないが、習近平政権は、果たして経済危機を回避できるのか。?