6月6日 一学人

 淡々たる中に滋味尽きぬ、さすがに達道者の言である。東里、通称は貞右衛門。伊豆下田の人。十三、父を(うしな)い、母の命に依り、剃髪(ていはつ)して郷里の禅寺に入り(しょう)(えん)と呼ばれた、(ひろ)く仏典を読み、(かたわ)ら荻生徂徠に就いてその嘆賞する所となった。また室鳩巣(むろきゅうそう)の門を叩き一家を成したが、当時の諸儒と対抗して門を張るを潔しとせず、光を(つつ)(あと)(くら)ましては、或は街に綿糸縫針の類を商い、或は竹の被膜を作って売ったりなどしながら、数日の糧を得れば門を()じて書を読むを常とした。余の好きな学人である。        古典を読む