米中首脳会談、敗者となるのは日本
          新たな枠組みの再構築が始まる
    データでわかる2030年の日本   2013年5月30日 Forbes.com

 米オバマ政権はアジアに対する不毛な政治・軍事政策の戦略的枠組みを見直すことになると筆者は1年前から予想してきた。

 この枠組みは一般に「アジア回帰」もしくは「アジアへのリバランス」と呼ばれるもので、その柱は中国に対する「封鎖的介入政策」だ。封鎖的介入(congagement)は、軍事的抑制(containment)と政治・経済的関与(engagement)を合わせた造語である。

 この枠組みの下での日本の地位は、1989年以降の相対的な経済衰退(“失われた20年”)と、そしてプラザ合意後の貿易摩擦の沈静化と歩調を合わせるように、着実かつ決定的に低下してきた。今では封鎖的介入政策に不可欠な、米海軍と空軍のアジア地域における前方展開戦力のための“不沈母艦”という物理的な役割に限定されている

 歴代の自民党政権は、この米軍の駐屯地という役回りを進んで受け入れてきた(野党の多くはそれを強く疑問視してきたが)。日米安保条約の下で米国の庇護)を受けられることを思えば、安い代償と考えたのだろう。さらに相当数の自民党議員や派閥が、日本の防衛産業と経済的な共生関係にあり、後者は米国防総省と周辺産業と共生関係にあった。

新たな枠組みの再構築が始まる

 封鎖的介入政策とそこにおける日本の地位を維持することは、官僚の既得権益に合致しており、それがオバマ政権内の議論を形成した(そしてヒラリー・クリントン前国務長官とレオン・パネッタ前国防長官の尽力で、これが政権の正式な立場となった)。さらにこの考え方は、2012年の「アーミテージ・ナイ報告書(日米同盟−アジアの安定を繋ぎ止める)」や2013年の「カーネギー報告書(2030年の中国軍と日米同盟、戦略的総合評価)」といった、表面的には公平無私を装う分析にも表れている。だがオバマ政権の1期目が終わる頃には、この戦略の不毛さと概念上の弱点は否定できなくなった

6月7日から8日にかけて米カリフォルニア州のランチョ・ミラージュで開かれる、オバマ大統領と中国の習近平国家主席による「サニーベイル・サミット」では、米国のアジアに対する新たな戦略的政策枠組みの構築が始まるだろう。新たな枠組みは、米国にとっての中国および日本の重要性に対する(懐古主義を排した)現実的評価、さらには地域秩序を維持するために軍事同盟を用いることが時代遅れで危険な手段であるという認識に基づくものとなるだろう。この再評価の過程において、最も変更が必要なのは日本、すなわち日米同盟に関する部分だ。

 中国政府が「新たな大国関係」で示した枠組みは、非排他的な共存関係と、「中核的国益」に指定された領域(まちがいなく領土のこと)外での武力使用の強い否定を特徴とする。その戦略構想は相互安保同盟を明確に否定するもので、米国にもその受け入れを期待している。だが米国が応じるには、第2次世界大戦後、すなわち冷戦後のアジアにおける枠組みを解体しなければならない。

 今でも米政府国家安全保障会議、国防総省、国務省の内部では、アジアにおける米国の戦略的国益とは何か、それが将来的にはどうなるかについて激論が続いているはずだ。

■データが語る日本の近未来

 この再評価においては、日本とその将来について現実的に評価することが極めて重要だ。15年後、20年後、30年後の日本はどうなっているのか。それは米国の国益にどのような意味を持つのか。米国は日本をどう評価し、どこに価値を見いだすべきなのか。

 筆者は東京で、三浦展氏の近著『データでわかる2030年の日本』(洋泉社)を手に取った。この本には人口統計データや、他の予測と比べてかなり精度の高そうな将来予測がうまくまとめられている。以下に要点を挙げよう。

2010年の日本の人口は約1億2654万人。人口規模は世界第10位で、ロシア連邦(1億4300万人)の下、メキシコ(1億1300万人)の上にあたる。それが2030年には1億1662万人、2050年には9700万人まで減少し、ベトナム(1億400万人)とケニア(9700万人)の間にあたる世界第17位まで後退する。

2010年には日本の65歳以上人口は全体の23%だったが、この割合は2030年には32%、2060年には40%に高まる。

・人口全体に占める依存人口(65歳以上の高齢者と014歳の若年層)の比率は、1965年〜2000年までは3033%だった。若年層の減少と高齢者の増加がほぼ一致していたためだ。それが2005年以降は依存人口比率の上昇が続いており、2020年には40%に達する見込みだ。2045年には50%に近づく。

・生産年齢人口と非生産年齢人口の割合は、1965年から2000年まではほぼ2:1にとどまっていた。それが2025年には3:2、2055年にはほぼ1:1になる見込みだ。

1970年には社会保障費(公的年金、公的医療保険、介護保険、生活保護費の合計)は3兆5000億円で、国民所得の5.8%を占めていた。それが2012年には社会保障費の総額は110兆円に達し、国民所得の31.3%を占めるまでになった(内訳は公的年金54兆円、医療保険35兆円、介護と福祉費が21兆円)。2025年には151兆円まで膨れ上がると予想される。

 このように書くのは、日本の本当にすばらしい社会や文化を軽んじるためでも、また日本が今後も世界で最も住みやすく、働きやすい国の1つでありつづけることに疑問を呈するためでもない。ただ、他の国々と比較すると、また地政学的な見地から言うと、日本の重要性や価値は急速に、そして不可逆的に低下していると指摘するためだ。

 新たな米中関係においては、日本が脇役的な立場に追いやられ、実質的に中立化されるのは避けられないまたそれは仕方がないが、日米双方にとって好ましいことでもある。