捨てよ、気兼ね・遠慮   徳岡孝夫 

ごく少し前だが、私は株を持っている。大阪で泊まるホテルの株、わが家の近くのファミレスの株など、主に株主優待を目当ての、儲からない株である。

物の弾みでニューヨーク証取で一銘柄買った。ホンの単元買いだが、小なりと雖も資本家になってウオール街を歩くとイイ気分になる。

一昨年、2009年、私は悪性リンパ腫になって半年入院、残り半年を通院で抗がん剤の点滴を受けた。白い天井を見上げながら「この病気で死ぬのか」と思った。ほぼ一年間、証券欄はおろか新聞も見なかった。

幸い完治して書斎に戻り、新聞を広げて驚いた。私の保有株は、軒並み三分の二以下になっていた。

それから一年余の間、ニューヨークの株は買値を回復、ここ一週間は更に上げ続けている。日本の株は依然低空飛行である。

株価は何を示すか?

私見によると、その国の経済が元気か否かを示す。少なくともそれを示す一指標である。

なぜ日本には元気がないか?

論じだすとキリがないから誤解覚悟で単刀直入に言う。日本人が、国ごと「謝る文化」に染まってしまったからである。

染まり始めて30年になる。最初は新聞記者が閣僚の言葉尻を捉えて韓国に御注進し、不用意発言をした閣僚を辞めさせる「儀式」だった。以後、日本の新聞読者は他人の頭頂を見なければ気が済まなくなった。

自分は謝る気などないが、謝らなければ国会審議が滞る。そういう時、日本人はあっさり謝る。毒ギョウザを作った中国人は謝らないのに、輸入して売った生協責任者は並んで深々と頭を下げる。奇妙な風習、一種の国民病である。

日本人は遠慮、気兼ね(双方とも英語に訳し難い)しながら世間を渡るようになった。そういう根性では国全体の気分が凹み、波風立てず無事平穏の航海を琴平さんに拝むだけの船乗りになり果てる。

尖閣諸島の衝突で海上保部員は退職した。ブリュッセルの「廊下懇談」で菅首相は温家宝首相に抗議したのかしなかったのか、せめてハッキリさせてくれ。