[坂の上の雲]をめざして

 昭和63年8月号 ふそう銀行誌 (現山陰合同銀行)

アメリカ銀行が日本の銀行に支援を要請中と言う。考えてみればそら恐ろしい事態である。米国の落日を象徴していると言えば言い過ぎであろうか。そう言えば最近異常とつく経済現象が余りに多いのに気づく。曰く、異状な円高、異状な株高、異状な米国の財政赤字と貿易赤字、異常なる途上国の累積債務、異状な東京の地価高騰。そして人々は次第に異常なるものに鈍感になってゆく。この異常現象を果たして何の予兆とみるか。・・・・
一つの文明や社会を作り上げた人間集団の精神の歪みは究極的には文明や社会の成熟、爛熟と共に蓄積されそして必ず破綻している。過去に於いて人類の有した21の文明は凡て滅びたように、この現代世界の支配的基盤である西洋文明も飽和と成熟の果てに歪みが巨大化し、人間や動植物と同様に衰亡するのであろうか。
私は現在は歴史的に見て世界システムの大変革期に入りつつあると思う。日本も一つの峠を越えたとの認識をもっている。
目前に控えているかもしれない内外の大転換期の前の大変な時に代表取締役常務の任命を受けたものと思う。私は郷土鳥取に30数年ぶりに帰郷したがその感傷に浸る気になれない。
激動の前兆かもしれない異常現象の多発の中、地方経済にあって我々にはどのような選択が残されているのであろうか。経済、社会の支配原則に奇跡はありえない。過去の環境は完全に変質した。将に戦慄する思いで就任致しました。全精神を集中し、もてる気力と知識経験を最大限に発揮し、ゆっくり急がねばならぬ。
一方、自己の経営を疑いつつ変化に機敏に即応し、いつでも自己変革できる柔軟性と謙虚さを、居敬窮理の心を以て当たりたい思う。私は企業が本当に存在するのは社員の心の中だと思う。すべては心より発する。皆様と心を寄せあっていきたい。商いの心を忘れないで、脳を多面的に刺激して情報に的確に反応し、地元に深く入りこんだシステムを確立することが唯一のサバイバルだと思う。  常務取締役 徳永圀典