佐藤一斎「(げん)志録(しろく)」その二 岫雲斎補注  

わが鳥取木鶏会で言志録四巻を5-6年前に輪読し学んだ。
このホームページに記載されないのが不思議だとの声が関西方面からあった。
言志禄は、指導者たるべき者の素養として読むべきものとされたものである。
言志四録の最後の言志耋録(てつろく)佐藤一斎先生八十歳の著作である。
岫雲斎圀典と同年の時である。

そこで、思いを新たにして、多分に、愚生の畢生の大長編となるのであろうが、
言志四録に大挑戦することを決意した。平成23530日 岫雲斎圀典


平成23年7月度

 1日 26
慮事(りょじ)処事(しょじ)

事を(おもんばか)るは周詳(しゅうしょう)ならんことを欲し、事を処するは易簡(いかん)ならんことを欲す。        

岫雲斎

周到に綿密に物事を考えることは必要。考えが決まったらさっさと片付けることだ。

 2日 27    
大志(だいし)の人は

真に大志有る者は、()小物(しょうぶつ)を勤め、真に遠慮有る者は、細事(さいじ)を忽にせず。 

岫雲斎

本当に大きな志を持つ人物は、小さな事柄も粗末にしない。また遠大な思考をする人は些細な事も疎かにしない。

 3日 28
誇伐(こばつ)の念こそ敵

(わずか)に誇伐の念頭有らば、便(すなわ)ち天地と(あい)()ず。 

岫雲斎
少しでも頭の中に誇り高ぶる思いあらば、それは天地の道理と離れることとなる。誇伐(こばつ)の念とは誇り高ぶる気持ち、天地は偉大な恩恵を与えても誇らない当たり前の顔をしている。自然の一つの人間もそうあるのが道理、当たり前ではないか。

 4日 29
大徳・小徳

大徳は(のり)()えざれ。小徳は出入(しゅつにゅう)すとも可なり。(ここ)を以て人を待つ。儘好(ままよ)し。 

岫雲斎
忠・信・孝・悌というような大きな徳に該当するものは、外れてはならぬ。しかし、小徳とも云える進退・応対のようなものは、他人には寛大に対応してよいだろう。自分に対しては小徳でもキチンと守るべきであろう。

 5日 30
自らに厳、他に寛
自ら責むること厳なる者は、人を責むることも亦厳なり。人を(じょ)すること(かん)なる者は、自ら恕することも亦寛なり。皆一偏(いっぺん)たるを(まぬが)れず。君子は則ち()自ら厚うして、薄く人を責む。 

岫雲斎

立派な君子たる人間であれば自分を責めることは厳でも、他人には寛である。

 6日 31.

 実事(じつじ)閑事(かんじ)

今人率(こんじんおおむ)ね口に多忙を説く、其の為す所を視るに、実事を整頓するもの十に一、二。閑事(かんじ)を料理するもの十に八、九、又、閑事を認めて以て実事と為す。(うべ)なり其の多忙なるや。志有る者誤って此のか(このか)を踏むこと(なか)れ。 

岫雲斎

現代人は多忙を口実として実際に必要なことをしているのはごく僅かである。
そして実につまらない仕事が大多数を占めている。
忙しいのは当たり前だ。
真の志ある者はこの穴に入らぬことだ。
 

7日 32.

立志を

 

(きび)しく此の志を立てて以て之を求めば、薪を(はこ)び水を運ぶと雖も、亦是れ学の在る所なり。(いわん)や書を読み理を窮むるをや。志の立たざれば、終日読書に従事するとも、亦唯是れ閑事のみ。故に学を為すは志を立つるより(かみ)なるは()し。

岫雲斎

聖賢たらんと志を立てれば、薪を運び、水を運んでもそこに学問の道は有り真理を得ることが可能だ。志が立っていなければ一日中読書していても聖賢には程遠いのである。志を立てることが大切だ。

 8日 33.
志ある者は
志有るの士は利刃(りじん)の如し。(ひゃく)(じゃ)辟易(へきえき)す。志無きの人は(どん)(とう)の如し。(どう)(もう)侮翫(ぶかん)す。 

岫雲斎

志ある人は鋭利に刃の如くで魔神も近寄らぬ。

意思のない人はなまくら刀で子供にまでバカにされる。
 

 9日   34.
少年と老年の心得
少年の時は当に老成の工夫を(あらわ)すべし。
老成の時は、当に少年の志気を存すべし。
 

岫雲斎
うーむ、なかなか良き言葉かな。若い時は経験者の如く熟慮し手落ち無きように工夫せよ。年をとってからは若者のような意気と気概を失わぬようにするのがいい。

10日 35

対人三則
その一
物を容るるは美徳なり。然れども亦明暗あり。 

岫雲斎
雅量があり人を許容するのは美徳だが、悪を容れるのは良くない。

11日 36.
対人三則
その二
人の言は須く容れて之を選ぶべし。(こば)()からず。又惑う可からず。 

岫雲斎
他人の言うことは一応聞き入れてから善悪を選択したらよい。始めから断ってはいけない。また、その言に惑わされてはいけない。自分の考えがなくてはならない。

12日 37

対人三則
その三
能く人を容るる者にして、而る後以て人を責むべし。
人も亦其の責を受く。
人を容るること能わざる者は人を責むること能わず。
人も亦其の責を受けず。
 

岫雲斎
人を容れる雅量があってこそ始めて人の欠点を責める資格がある。そのような人からの責めは受け入れられよう。反対に雅量のない人は人の短所を責める資格もない。このような人の責めは受け容れられないであろう。

13日 38

人相は隠せない

心の(あら)わるる所は、尤も言と色とに在り。
言を察して色を()れば、(けん)不肖(ふしょう)
、人
隠す能わず。
 

岫雲斎

言葉と顔色に人の心が最も現れる。その人の言葉を推察し、顔色を照らし合わせて観れば、利巧かバカか分る。人というものは決して隠せるものではない。 

14日 39
(けん)()(そう)
人の賢否は、初めて見る時に於て之を(そう)するに、多く(あやま)らず

 

岫雲斎
私には100パーセントそうだと云えない。人間性の第一印象の直観はほぼ当たっているとは思うが、諸対面で賢否の判定には自信がない。 

15日 40.

愛憎
(あい)()念頭(ねんとう)、最も(そう)(かん)(わずら)わす。 

岫雲斎

好き嫌いが頭にあると、人物鑑定の間違いの元となる。

16日 41
富貴と貧賤

富貴は(たと)えば則ち春夏なり。人の心をして(とう)せしむ。貧賤は喩えば則ち秋冬なり。人の心をして粛ならしむ。故に富貴に於ては則ち其の志を溺らし、貧賤に於ては則ち其の志を(かた)うす。 

岫雲斎
貧賤は粛ならしむ、近年はこの感覚が欠けている。みな太った豚みたいな顔の指導者ばかりに見える。これは社会の弛緩となりあらゆる場面で事故多発となっている。これで日本国の斜陽が始まると社会が益々悪化しよう。

17日 42
          
 

知分(ちぶん)()(そく)
(ぶん)を知り、然る(のち)()るを知る。 

 

岫雲斎
これは自分の能力、人間的実力、地位などを勘案すれば、それなりに満足しなくてはならぬ事か。広い世間を知らぬ者が陥る場合が多い。私はそれを田舎者という、都会にも田舎者が多い。概して井戸の中の蛙は地方に多い。田舎に住んだ儘の人々には見えないものがあるのに本人は気がつかない。ただ本当に学んでいる人は田舎に住んでも物の見える人も存在する。

18日 43
 
(さく)()と今の過ち
昨の非を悔ゆる者は之れ有り、今の(あやまち)を改むる者は(すくな)し。 

岫雲斎

この言葉は真言なり。
現在、只今の非を自覚してこそ進歩である。

19日 44.

得意の時こそ
得意の時候は、最も(まさ)に退歩の工夫を()くべし。一時一事も亦皆(こう)(りゅう)有り。 

岫雲斎
我が思いが成功した時こそ退歩、一歩下がる気持ちを工夫せよという、至極最もだが難しいものだ。上に登り詰めた者は退くことを考えておかないと悔いに直面する。菅直人の例など当に然りだ。 

20日 45.

寵愛(ちょうあい)
を受けたら
(ちょう)過ぐる者は、(うらみ)(しょう)なり。(じつ)(はなはだ)しき者は、(うとん)ぜらるるの(ぜん)なり。 

岫雲斎

上の人から寵愛されたら身を慎むことじゃ。
周囲から疎まれ恨みを招く。
これが人情というものだ。
 

21日 46.
政治の要諦

土地人民は天物(てんぶつ)なり。()けて之を養い、物をして各々其の所を得しむ。是れ君の職なり。(じん)(くん)或は(あやま)りて、土地人民は皆我が物なりと()うて之を(あら)す。此を之れ君、天物を(ぬす)むと謂う。 

岫雲斎

土地人民を私物化して安泰であったタメシは歴史的にあるまい。
日本の天皇様の如く、被災者の見舞いに膝をついておられる姿、菅直人クンの最初の訪問時の罵声と見比べるとよく理解できよう。

22日 47

 
君主

君の臣に於ける、賢を挙げ能を使い、(とも)に天職を治め、与に天禄を()み、元首股肱(ここう)、合して一体を成す。此を義と()う。(じん)(くん)()(いたず)らに、我れ禄俸(ろくほう)(いだ)し以て人を(やしな)い、人(まさ)に報じて以て駆使に赴かんとすと謂うのみならば、則ち市道と何を以てか異ならむ。 

岫雲斎

君主は禄を出して人民を意のままに使い、人民はその禄に報いるだけでは単なる商売と異ならぬ、道義は益々廃れる。

賢者を登用し、人民の夫々の能力を存分に発揮させてこそ君主とか上に立つ者と言える。

23日 48

(たか)く地(ひく)くして、乾坤(けんこん)定る。君臣の分は、(すで)(てん)(てい)に属す。各々其の職に尽くすのみ。故に臣の君に於ける、当に(ちく)(よう)の恩如何を視て其の報を厚薄(こうはく)にせざるべきなり。 

岫雲斎
現代の感覚には当てはまらないからこの理の理解が出来ない人が多かろう。然し、天は高く、地は低いから天地が定まるのは法則であり絶対だ。物事には原理が正しく働かねば動かぬ。組織をよく機能させるには、上に立つ者の在り方が良くなければならないのは確かな真理だ。
組織の原理は民主的ではないのも事実だ。
 

24日 49

  
指導者の道

天工を助くる者は、我従うて之を賞し、天物を(そこな)う者は、我従うて之を罰す。人君は(わたくし)()るるに非ず。 

岫雲斎

上に立つ者には、私心があってはならないと云うこと。
現代は恐ろしいくらいのこの原理が忘却されている。
上のものの根幹的思想なのであるが。

25日 50 
 
財成

てきばききりもりすること
五穀自ら生ずれども、耒耜(らいし)を仮りて以て之を助く。人君の財成輔相(ほしょう)も亦此れと似たり。 

岫雲斎
耒耜(らいし)は「(すき)」のこと。

五穀も人間が鋤や鍬で栽培せねば良くならん。良い人民も君主次第であろう。

26日 51

大臣

大臣の職は、大綱を()ぶるのみ。日間(につかん)()()は、旧套(きゅうとう)遵依(じゅんい)するも可なり。但だ人の発し難きの口を発し、人の処し難きの事を処するは、年間(おおむ)ね数次に過ぎず、紛更労擾(ふんこうろうじょう)(もち)うること(なか)れ。 

岫雲斎
情けない近年の日本の大臣である。大臣は最も大切な点のみ統べればいいが、民主主義では総理もままならぬこととなった。日常の些細なことは、幹部に任せたらいい。それをやっていては本質的な処理ができない。本来の大臣は、ここに指摘されているように、「人が言わんとして言えない事を言い」、「人が処理に迷う難事を処断」することだ。その為に日頃の心労を避けよと云っているのだが・・。

27日 52.
重臣の任務
社稷(しゃしょく)の臣の執る所二あり。曰く鎮定。曰く機に応ず。  

岫雲斎
国家経営者の最大の任務は二つ、一つは安全保障・民生安定。二は、臨機応変である。菅直人クンは私が有り過ぎて国家大局を喪失している。

28日 53  

()(おう)の気

家翁、今年八十有六、(かたわ)らに人多き時は、神気(しんき)自ら()(そう)(じつ)なれども、人少なき時は、神気(とみ)(すい)(だつ)す。()思う、子孫男女は同体一気なれば、其の頼んで以て安んずる所の者(もと)よりなり。但だ此れのみならず、老人は気(とぼ)し。人の気を得て以て之を助くれば、(けだ)し一時気体(きたい)調和(ちょうわ)すること、温補(おんぼ)薬味(やくみ)を服するが如きと一般なり。此れ其の人多きを愛して、人少きを愛せざる所以なり。()って悟る、王制に「八十、人に非ざれば(たん)ならず」とは、蓋し人の気を以て之を(あたた)むるを謂うなり。膚嫗(ふう)(いい)に非ざるを」 

岫雲斎

要するに八十六の父親に関して、肌身に添ってくれる老女が必要なのではなく、年寄りには側に人がいて賑やかだと気持ちが暖かくなり元気が出てくるのだと言う趣旨である。

孤独が最もいけないと云うことだ。
 

29日 54.

酒三則

酒は(こく)()の精なり。(すこ)しく飲めば以て生を養う()し。過飲して狂?(きょうく)に至るは、是れ薬に()って病を発するなり。人?(にんじん)附子(ふす)()()大黄(だいおう)の類の如きも、多く之を服すれば必ず瞑眩(めんけん)を致す。酒を飲んで発狂するも亦猶お此くのごとし。 

岫雲斎

酒は穀物の精だから養生に良い、だが多飲すれば狂うのは薬により発病するのと同じ。

人参などなど多用して眩暈が出来るのがその証明だ。
 

30日 55.
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酒三則
酒の用には二つあり。鬼神(きじん)は気有りて形無し。故に気の精なるものを以て之を(あつ)む。老人は気衰う。故に亦気の精なる者を以て之を養う。少壮気(さかん)なる人の(ごと)きは、?(まさ)に以て病を致すに足るのみ 

岫雲斎

気が有り形の無いのは神様だからお供えし招く。
老人は気が衰退するから酒により気力を養う。
気溢れて盛んな若者は病を招くから多飲を避けるべし。
 

31日 56


酒三則
勤の反を()()し、倹の反を(しゃ)と為す。余思うに、酒能く人をして惰を生ぜしめ、又人をして奢を長ぜしむ。勤倹以て家を興す()ければ、則ち惰奢(だしゃ)以て家を(ほろぼ)すに足る。(けだ)し酒之れが(なかだち)を為すなり。 

岫雲斎

酒は人間を怠惰にするし又驕りの心を起させる。
家運興隆は勤勉と節約に拠る。
怠惰、贅沢は家運衰退の元だ、酒がこれの媒体となる。