日本古代史の謎 その二 水野 祐氏より   

          第一講   古代史の楽しみ
平成23年7月度

 1日 「記紀」は

第8世紀初頭

それに先程、日本人が文字を使った記録が整ってきたのは第7世紀以後のことだと述べましたが、そのことは、記録が第7世紀から以後のものしかないということではありません。例えば、「記紀」は第8世紀初頭に記されたものですが、そこにはそれ以前の天皇家の歴史を中心とした古代史が記されています。

 2日

もとより、その記述は様々な変形を受けた口伝の記録で、必ずしも正確なとばかりは言えないわけですが、それでも貴重な手がかりを提供してくれています。また、わが国の記録だけでなく、隣国・中国や朝鮮の記録も少ないとはいえ貴重な研究材料となります。

 3日 注 

民族
言語、地域性、経済的生活及び風俗、習慣の共通 性を基礎として歴史的に形成された強固な共同体、人間集団。
旧石器時代
旧石器時代は人類最古の文化階梯に属し、第4紀洪積世に相当。
地質学
地殻・マントルの構成・構造やその形成史・変動に伴う水陸分布の変異、その他地球上の変動・沿革などを研究する学問。

 4日 国家
一定の領土とその住民を治める排他的な権力組織と統治権を持つ政治社会。
考古学
遺跡・遺物に基づいて人類文化の過去を研究する学問。
 5日

人類学
人類の形質及びその文化の比較・研究あるいは歴史的研究を行う学問。人類の生物的な面を対象とする形質人類学と文化的・社会的な面を対象とする文化人類学とがある。
民俗学 
民間伝承などの民俗資料に基づき過去の社会関係や文化を研究する学問。

 6日

石器時代
石を中心にした利器を製作使用した時代。
古墳時代
司祭者的首長が一般農民と隔絶した階級的支配者としての地位を固定させ、地方豪族として成長、大規模な墳墓を造営した。

 7日

文献
ある研究項目についての参考論文の書誌。
史料
歴史的記述の素材。歴史の研究または編纂に必要な文献・遺物。

壮大な歴史の流れを組み立てる
 8日 壮大な歴史の流れを組み立てる 誤解を恐れずに言うならば、古代史を学ぶ面白さは、少ない研究材料や記録、あるいは虚構と思われる記録でもその虚構性を取り除くことで見えてくる事実などを基にして壮大な歴史の流れを組み立てることにあると言えます。
 9日 国家の形成や社会を推理、構築

記録の全くない石器時代や縄文時代のことであれば、考古学などを中心とした学問の研究成果を材料として、その時代を生きた人間の営みを想像する。弥生時代であれば、考古学などの成果や僅かな記録を頼りとした史学的な方法で、国家の形成や社会を推理、構築する。

10日 古代史を学ぶ楽しさ

古墳時代以降になってくると、「記紀」などの記述を今度は他の学問分野の成果とも照らし合わせながら、検証してみたり、あるいは、虚構の記述を見抜いたり、その虚構の背後に隠された真実を明らかにしてみたりして、歴史的事実を確定してゆく。そうした知的作業の中に、古代史を学ぶ楽しさがあるのだと思うのです。

11日 古代史の醍醐味

例えば、私は「記紀」などの文献資料を厳密にすることで三王朝交替説を確立し、日本古代史界に大きな波紋を投げかけました。その波紋が広がり、いまや多くの古代史家が三王朝交替説を取り入れた学説を唱えるに至っているわけですが、これね私が今述べてきたたような古代史を研究する楽しさに魅了され、その面白さが私の知的興味にエネルギーを供給し続けてくれたからこそであると感じます。これから本講座で古代史を学ばれるあなたも、そうした古代史の醍醐味を味わって頂きたく切に願い

12日 自分の考えを検証する

その為に、一つだけアドバイスしておきたいのは、抗議で説かれることを棒読みしてはならないということです。棒読みして、ただ、成る程そうなのか、で終わってしまっては、知識が身に付かないだけでなく興味を持続できずに最後まで講座を続けることさえ困難になるでしょう。

13日

あえてお断りしておきますが、本講座で講義されることはの見解です。もちろん自信をもって自分の見解を述べていくわけですが、あなたがそれを全て鵜呑みにする必要はないのです。ある程度の知識を得たならば、あなたに私ち違う見解が生じても何の不思議もないのです。

14日

「おや、この部分はこうも考えられるのではないか」と思ったならば、そのままにしておかずに、自分の考えを検証して見てください。検証して、誰がどのような批判を加えてきても、自分の考えを裏づけられるならば、それはもうあなた自身の「古代史」なのです。また、検証できずに、やはり講義の内容が正しいようだと逆戻りしたかに見えても、そのことによって講義の理解は格段に深まっているわけです。

15日

こうした作業を怠らずに続けられるならば、講座を終えたとき、必ずやあなた自身の中に自分なりの古代史が構築されていることでしょう。それは単に古代史のウンチクが増えたというのではなく、物事を広い視野から眺められる視点を獲得したことになるに違いありません。

16日

三王朝交替説
神武ー推古までの天皇のうち、「記紀」の崩年干支や諡号の検証から実在した天皇はおよそ18  代とする。その実在した18代の天皇を、互いに血縁関係のない、古・中・新王朝に分け、三つの王朝が交替して日本の古代国家が完成したと見る学説。詳しくは第三章で学びます。  
日本史の時代区分 日本史の時代区分
17日 最近の大時代区分 古代史の醍醐味を味わう為は、最低限度の知識が必要です。その為、ここで最近の大時代区分に従って歴史の流れに従って歴史の流れを把握してみましょう。
18日 五つの時代 日本の歴史は、民族の歴史としての時代経過から見て、大別して()(げん)時代、古代、中世、近世、近代(最近世・最近代ともいいます)の五つの時代に分けるのが最近の一般的な時代区分となっています。
19日 (始原時代)

縄文時代
次ぎに夫々の大時代区分ごとに簡単な解説を加えてみます。 
(始原時代)
始原時代は別の言葉で言えば、旧石器時代に始まり、中石器時代を経て新石器時代にいたる石器の時代です。日本の歴史では、新石器時代のことを一般に縄文時代と名づけています。
20日 (古代)

弥生時代から古墳時代


二番目は、大きな時代区分が古代です。考古学で言えば弥生時代から古墳時代を含めた時期で、金石併用の時期、つまり金属器が現れて石器に取って代わる時代から更には青銅器などとともに鉄器が使われる、金属器の時代も含まれます。これを別の見方をしますと、ちょうど初めて日本に国家というものが成立した時期を中心とする時代とも言えます。
21日 (中世)

封建時代
荘園封建制時代
古代に続く時代が中世です。一般に封建時代と言われる時期のことで、封建制度が確立する時代です。封建時代と言いましても、その最初の時期はまだ分権的な封建社会でした。それは古代的な土地支配の形体でもある荘園を中心とした封建制度の時代という意味で、荘園封建制などという言葉が使われる荘園封建制です。
22日 (近世)

幕藩体封建社会
近世は、中世と同じ封建制度が続く時代ではありますが、集権的な封建社会に変わっていきます。そして中世の荘園封建制社会に対して、江戸幕府の間接支配と、各藩の大名たちの直接支配が行われる時代という意味で、一般には幕藩体封建社会と言われる時代のことをいいます。
23日 (近代)

資本主義時代
近代とは、以前には最近世の時代とも言われていましたが、封建時代に対して資本主義の経済発展する時代で、近代国家が成立する時期と解釈されています。 
日本史時代区分比較表
24日 日本史時代区分比較表


        始原

大区分

当該世紀

主要事項

特記事項

重要人物

始原

 

 

数百万年前から

 

前第三世紀

@      トールユージングからメイキングへ

A採集狩猟文化
B北アジア的寒流系漁撈文化
C南アジア的暖流系漁撈文化
D耨耕・火田工作文化

打製石器

  

磨耗石器

 

 
縄文石器

 

 

 
原日本人形成

25日     古代

古代

前第2世紀から 
2世紀

@首長時代 

A氏姓性社会時代

 

B律令制集権国家時代(荘園制時代)

王朝交替
十七条憲法

大化の改新


皇親政治

律令国家

葛城氏、大伴氏、物部氏、聖徳太子蘇我氏、天武天皇藤原氏、藤原道長

後白河法皇、
平清盛。

26日     中世

中世

13世紀

14世紀

15世紀

16世紀

分権的封建時代

(荘園封建時代)

@武家政権
A 鎌倉幕府
B  貴族の没落
C 足利幕府
D弱肉強食

源頼朝、
北条時宗

後醍醐天皇、
足利尊氏

足利義満

足利義政

27日     近世

近世

17世紀

18世紀

19世紀後半

集権的封建時代

(幕藩封建時代)

@天皇権の回復

A織豊政権

B江戸幕府

C大政奉還

織田信長
豊臣秀吉

徳川家康

徳川綱吉

松平定信

水野忠邦

徳川慶喜。

28日     近代

近代

19世紀後半

20世紀

第21世紀

@ 資本主義時代
(絶対主義天皇制国家)

A
民主主義耳時代(主権在民の国家体制))

@王政復古
A立憲君主国
B無条件降伏
@   
民主主義時代

明治天皇坪内逍遥伊東博文伊東博聞大隈重信吉田茂
昭和天皇

29日

始原時代
始原時代と私が言う時代を一般には原始時代といい、教科書などでは原始古代と使っている。原始とはプリミティブの訳語であるが、この語には時代概念を含まないから、時代概念を重視する史学上の術語としては不都合。人類学や民俗学の用語としては適切であっても、史学に於いては、現代の未開社会人の文化も、古代の未開文化とともに原始文化。それに対して始原という語はプリミバルの語源であって、この語は物事の始めの時代を示す明確な時代概念を持つもので、史学に於いては始原とするのが正確である。
30日 封建制度

通史  
封建制度
封建社会の政治制度。領主が家臣に封土を給与し、代わりに軍役の義務を課する主従関係を中核とする。
通史
歴史記述法の一様式。一時代または、一地域・一分野などに限った特殊史に対し、歴史全体を通観した総合的記述。 
31日 トールユージング トールユージング
道具を使う意。メイキングとはこの場合道具を作るということ。つまり「トールユージングからメイキングへ」とは、道具を使用する時代から、より有益な道具を作って使用する時代へ変わっていくことを言う。ひいては、打製石器から磨製石器へ変換する時代をさす。