稲羽の素兎 |
スサノオと櫛名田比売は後に八島士奴美神を生む、この五代後に大国主神が誕生することとなる。その後、スサノオは大山津見神の娘との間に、大年神と宇迦之御魂神を生んでいる。
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スサノオの六代目の孫で出雲に暮らす大牟遅神(オオナムチで大国主神のこと)には、「八十神」と呼ばれる多くの兄弟神がいた。その多くの兄弟が、稲羽(因幡、現在の鳥取市)に住む八上比売を妻にしようと求婚に出かけた。その時、オオナムチは荷物持ちとして同行した。 |
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道中、八十神たちは稲羽の気多の崎(鳥取市気高)で皮を剥かれて苦しむ一匹の兎に出会う。 |
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八十神たちは兎をからかい「塩水を浴びて風のよく通る高い場所で横になるがよい」と伝える。素直に聞いた兎は、更なる痛みに襲われ傷も悪化した。荷物を持っていた為に遅れて到着したオオナムチは泣いている兎に理由を尋ねる。「私は淤岐島に住むものです。 |
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和邇を騙して海を渡りましたが、最後の所でばれてしまいまして皮を剥されました。先に通った八十神にも騙されてこんなことになってしまいました」。それを聞いたオオナムチは言う「川へ行き、真水で体をよく洗い、蒲の穂の黄色い花粉を地面に蒔いてその上に寝なさい」と。 |
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元通りの体になった兎は言う「八十神たちの望みは実現しないでしょう。八上比売と結婚するのはあなた以外にありません。と予言する。 |
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その後、八十神たちは八上比売に求婚するが「貴方達とは結婚しない、私はオオナムチに嫁します」と断る。八十神たちの怒りはオオナムチに集中した。 |
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報復として、八十神たちは二度、オオナムチを殺害する。一度目は、伯耆国(鳥取県中西部)の山麓に呼び出し、赤い猪を捕獲せよと言い猪に似た、赤く焼けた大石で落命した。 |
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然し、母親神の訴えで高天原からやって来た二女神の力でオオナムチが生き返った。それを知った八十神たちは、大木の裂け目におびき寄せて圧死させた。再び母親神の力で息を吹き返し「このままでは完全に殺される」と心配した母親神の指示に従い、木国の大屋毘古神の元へ逃亡した。 |
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註 白兎海岸 |
大国主が稲羽の素兎を助けた場所とされるのが鳥取市の白兎海岸、200米沖に、岩の島・淤岐島が浮んでいる。 |
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須佐之男命が与えた試練 |
稲羽の素兎の伝承は、オオナムチが「大国主」の資質を持つことを示すものと言われる。だが、まだ様々な試練と苦難を経なくてはならなかった。 |
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オオナムチは木国へ逃げ込んだが八十神たちはまだ追跡する。オオナムチをかくまう大屋毘古神を弓と矢で脅して引渡しを要求する。すると、大屋毘古神は、オオナムチに「スサノオのいる根の堅州国へ逃げなさい」言った。 |
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スサノオの宮に辿り着いたオオナムチは、宮から出てきたスサノオの娘・須勢理毘売(スセリビメ)ト出会い、互いに一瞬にして恋に落ちる。然し、父スサノオの試練は厳しいものであった。 |
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スサノオからの試練を一覧表にしてみよう。 |
初日は蛇、2日目はムカデと蜂の巣の岩屋に幽閉。これを須勢理毘売から渡された「布」の呪力で乗り切る。 |
スサノオが放った矢を探せと命令され、発見したら忽ち周囲が炎に包まれる。ここはネズミの助けて助かる。 |
スサノオの頭を這い回るムカデ退治を命じられる。椋の実と赤土で退治しているとスサノオは眠る。 |
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スサノオが眠っている間に、須勢理毘売を背負い、根の堅州国を脱出した。この時、スサノオの武力を象徴する、生命力溢れた武器「生太刀」と「生弓矢」、そして神懸りの儀式で使う「天の詔琴」を持ち出す。スサノオが追いかけるが間に合わず、別れ際に、持ち出した武器で八十神を倒して「大国主神と名乗り須勢理毘売を正妻にせよ」と伝えた。 |
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根の堅州国への逃亡の契機となった八上比売は正妻に恐れをなしてオオナムチとの間の子を木の股に挟んで故郷の稲羽国へと帰った。 |
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オオナムチの助っ人・スクナビコナ |
少名毘古那神(スクナビコナ)は、オオナムチが出雲の御崎に出向いた時、海の彼方から天の羅摩船(ガガイモで作った船)に乗って蛾の皮の衣を身につけてやって来た神で素性を知る神はいなかった。 |
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するとヒキガエルが「案山子のクエビコなら何でも知っている」と言い、オオナムチはクエビコに尋ねた、曰く「これは天の神・神産巣日神の子のスクナビコナである」と。 |
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足はなく歩けないが何でも知っている神であった。オオナムチは高天原に確認した、神産巣日神は、「私の子だ、手の指からこぼれてしまった」と話し、スクナビコナに対して「お前は、大国主神と兄弟になり国作りに励め」と命じた。この二つの神は、日本書紀はもとより出雲風土記、万葉集にさえ出てくるのだから、広く信仰のある土着神なのであろう。 |
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海の向こうからの神がやって来るのは大陸との関係を思わせる。オオナムチが国づくりを始めた頃、「私の御魂を丁重に祀るなら協力する、私が協力しなければ国作りは完結しない」と近づく神がいた、それが大物主神であった。 |
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「倭の青垣の東の山の上に拝き奉れ」と答えた。この神が、御諸山・三輪山の上に鎮座する大物主神である。これにより更なる進展があった。 |
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参考、 |
日本書紀では、大物主神がオオナムチに対して、「私はあなたの幸魂奇魂です」と答える場面もある。幸魂奇魂とは実に素晴らしい言葉で、「平穏な幸せ、不思議な作用の霊魂」とでも言おうか。 |
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大国主神と大物主神の国作りが終了すると、高天原では、本来は天つ神が治めるべきだとの傾向が強まった。アマテラスは八百万の神々を集めて協議する。 |
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そして思金神を中心にした神々の言う通り、地上に派遣されたのが、天菩比神だが、この神は大国主神に媚びるばかりで三年過ぎても一切の報告が無い。 |
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そこで、天若日子を遣わしたが前の使者より野心があり大国主神の娘と結婚する。そして、葦原中国を我が物にしようと画策し8年経過しても一切報告しない。 |
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度重なる失敗、三度目に派遣されたのが鳴女という雉であった。天若日子に「どういうつもりか」と詰問させた処、天若日子は侍女に言われるまま天の波士弓と天の加久矢で鳴女を殺してしまった。その矢が高天原まで届き、アマテラスと高木神(高御産巣日神で造化三神の一神)の足元に落ちた。 |
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すると、高木神は、「天若日子が命令に背かないなら、この矢よ、天若日子に命中するな。もし邪心を抱いておれば、この矢よ、天若日子に命中し、命を奪え!」と矢を地上に向けて投げ返した。 |
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結果は、矢は命中し天若日子は死んだ。天若日子の死後、地上では大国主命の子である下照比売が泣き暮らしていた。その声を聴いた天若日子の父・天津国玉神と高天原に残された天若日子の妻子は天から地上に下り喪屋を作り葬儀をし八昼夜続いた。 |
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弔問にきた神々の中に天若日子のそっくりな神がいた。神々は死んでいなかったと足元にすがりついて喜んだ。然し、間違われた神の阿遅志貴高日子根神は「汚らわしい死者と間違えるな」と激怒し喪屋を倒した。 |
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その場所が美濃の藍見川の川上にある喪山である。この阿遅志貴高日子根神は、下照比売の実の兄であった。 |
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アマテラスと高木神は改めて八百万の神々と協議した。すると思金神が「天の岩屋におられる、伊都之尾羽張神か、その子供・建御雷之男神がよいでしょう」という。 |
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