713日 学問と経済安定

 学問をするには先ず経済生活の安定を得ねばならぬというがごときは非常に人を誤り易い危険な思想と言わねばならぬ。人間の一生を学問のためと生活と経済のための生活とに分けようとするのが既に無理である。それに何故、学問をするにはまず経済生活の安定を得ねばならないのか。それは明らかに貧乏が自己の学問の妨げになるという理由による。しかしながら、厳粛に内省すれば、むしろ人は貧乏を嘆くよりも深く自己精神の惰弱を慚愧すべきではあるまいか。真実は貧乏が自己の学問を妨げるのではなくて、自己が貧乏に苦悩して学問を捨てるのである。つまり学問よりも口腹の方につくのである。それは自己の精神生活が畢竟、惰弱な証拠でなくて何であろう。