7月7日 人間を成立させる筋道

 私の主催する師友会とも親しい方で胡蘭成さんが

おられる。今日の中国を見渡しても思想家・文章家と

しては抜群の人物です。その胡蘭成さんが「このごろ

しどうも世の中が一倫の時代になった」と言って嘆息

していた。

東洋思想には昔から「五倫五常」という人間を成立さ

せる筋道があった。「君臣・父子・夫婦・朋友・長幼」

という五つの関係から人間が成り立ってきた。処が今

日の世の中を見ると、「先ず君臣関係というのが分か

らなくなってしまい、父子関係が怪しくなり、朋友、

長幼なんていう関係は乱れてしまって、夫婦関係だけ

になってしまった。即ち五倫が一倫になってしまった

たようです」というのである。

なるほど、これは見事な見識です。さらに彼曰く「残っていると思っていた、その一倫もこのごろは怪

しくなって夫婦なんていうものは、だんだん男女関係

になってしまった。これは、もう人倫というものじゃ

ありません。獣倫であり鳥倫である」、鳥獣と同じだ

と言って慨嘆しておる。

極端に言えば、将にその通り。そこで、我々は改めて

五倫を確かめ、特にせめて残されている一倫をよく考

えなければならん。儒教でも「君子の道は(たん)を夫婦に

()す」という。夫婦関係から人間生活が始まると力説

しておる。    この師この友