1日 |
第四品 華
56 |
多掲羅や栴檀よりきたる その香は微小なり されど 戒をたもつ人の香は世に比類なく 諸神のちかくにも薫ぜん
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センダンやタガラの香りは、ほのかであり遠くには届かない。
然し道徳を具えた人の香りは遥か神々にまで匂って喩えようもないものだ。
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2日 |
57 |
戒をまもり おこたりなく生き 正しき智慧もて 解脱にいたれるもの かかる人々のゆく道は 誘惑者も知るによしなし
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道徳を備え、心を励まして生活し、物事を正しく捉え、何事にも束縛されぬ人々には魔物は近寄らない。
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3日 |
58 |
都大路に 棄てられし 塵芥の 堆の中にも げに 香たかく こころたのしき 白蓮は生ぜん
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大通りにうず高く棄てられた塵芥の中から芳しい香り、心を楽します白蓮が生える。
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4日 |
59 |
かくのごとく 塵芥にも似たる 盲目たる 凡夫のうちに 正しき覚者の弟子は 智慧もて 光あらわる
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このように塵芥の中から、即ち盲目の凡庸な人の中から、全てを正しく、そして遍く知った智慧ある仏陀の弟子が現われる。
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5日 |
第五品
闇愚
60
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眠りえぬものに 夜はながく つかれたるものに 五里の路はながし 正法を知るなき おろかの者に 生死の輪廻は ながからん
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起きている者に夜は長い、疲れた者に五里は長い、真理の法を知らない愚か者には、この生死のやむことない輪廻の人生は誠に長いであろう。
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6日 |
61 |
旅にゆきて 自己にまさり はた 自己にひとしき人に 逢うことなくば むしろ独り行くことに 心をかためよ おろかなるものを 伴侶とすべきにあらず
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旅人が、もし自分より勝れるか、等しい人に出逢うのでなければ、思い切って、心強くして独りで行きなさい。愚かな人を連れにすることはない。
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7日 |
62 |
「我に子等あり 我に財あり」と おろかなる者は こころなやむ されど われはすでに われのものにあらず 何ぞ子等あらん 何ぞ財あらん
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「私には子供がある。私には財産がある」と愚かな者は言って自分を苦しめている。
然し、そう言う自分自身はそもそも本質的に存在していない、どうして子供達があろう、どうして財産があろう。
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8日 |
63 |
おるかなるものも おのれ愚かなりと思うは 彼これによりて またかしこきなり おろかなるに おのれかしこしと思うは彼こそ まことおろかといわるべし
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愚かな者でも自分が愚かと思っておるならその限りでは、その人も賢いと言える。然し愚かな者が自分を賢いと思い誤っておるならそれは誠に愚者である。
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9日 |
64 |
たとえ生命のかぎり 師にかしずくとも 心なきひとは 正法を知らざるべし げに 匙は器につけども 羹味を知ること なきがごとし
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愚かな者が生命ある限り賢人の側近くにいても、それだけでは真理を知ることはできぬ。スープの味を匙が知らぬようなものだ。
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10日 |
65 |
たとえ瞬時の間 師にかしずくとも 心あるひとは たちまちにして 正法を知らん げに 吾こそ 羹味を知るがごとし
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ほんの暫くの間でも心ある者が賢人の側にいたら速やかに真理の法を得るだろう、それはあの舌が直ぐにスープの味を知るようなものである。
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11日 |
66 |
おろか人は おのれにむかい おのれの仇敵のごとく ふるまい行う おのれ自らに あしき業をなして くるしみの 果実を口にす
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愚かで弁えのない人々は自分自身を恰も敵のように振舞う。なぜなら、やがて自分に苦役を与えるような悪行を自分に敢えてするからだ。
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12日 |
67 |
行いを作しおわりて こころ内に悔い 顔は涙にぬれて その果報をうく まこと かかる行いは 善くなされたるにあらず
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ある行為を終ってから悔い改め顔に涙が流れるような結果を招く行為は善く考えたものではない。
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13日 |
68 |
行いを作しおわりて こころに悔いなく 顔に喜笑あり おもいたのしく その果報をうく まこと かかる行いは 善く作されたるなり
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善い行為をすれば悔い煩うことのないと喜びがあり、心は楽しく、その結果を待ち望めめるものだ。
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14日 |
69 |
その罪業の熟するまで おろかの人は これを蜜のごとしと思い その罪業 まさに熟するの日 彼ははじめて くるしみを嘗む
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愚かな者は自分の行った悪事が熟さないでいる間はその蜜を嘗めているが一たびその悪事が熟して悪の実が結び、そこで始めて苦しみを感じる。
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15日 |
70 |
おろかなるもの 月に月に 苦行者の風にならいて 茅草の端につけたる 食物を摂るとも そのふるまい 法をわきまえたる人の 十六が一にもおよばず
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月にたった一度だけしか茅草の端につけて食を取らなかったとしてもこの人の功徳は真理をわきまえた人の十六分の一にも及ばない。
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16日 |
71 |
犯したるあしき業は 新たに搾られし 牛乳のごとく ただちに凝まることなし されどその業は灰に覆われたる 火のごとく 燻りつつ かの人を遂いゆく
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既に行った悪事は新しく絞った牛乳のように直ちには固まらない。それは灰に覆われた火のようにくすぶりながも続いてゆく。
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17日 |
72 |
おろかなるひとに 念慮起るとも 他を利せん心なくば その念慮 かえって自らの 好運を亡ぼし おのれの頭かしらをも うち砕く
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他を害せんとする智慧が起きる間は、それは愚かな者の好運さえ破るものとなる。そしてその者の頭をも砕くことになる。
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18日 |
73 |
おろかなるもの 虚しき尊敬を望み 諸比丘の中に 上位にあらんことを願う 僧房の中にては 主権をえんとし 他の族にては 供養をえんことを望む
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虚しくいつわりの尊敬を得ようとし、僧侶の中では上席にあろうとし、寺の中では主導しようとする、他の氏族の中でも供養を得られようとするのは愚かな者のすることだ。
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19日 |
74 |
「こは我によりてなさる 家に在る人も出家せる人も 共にかく思うべし すべて作すべきことと 作すべからざることに於て 何事も実にわが意に従うべし」 かくおろかなるものは思量す かくて欲望と 高慢とは増長る
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「家にある者も家を出た者も私が本当にこの事をしたと思ってほしい。何をなすべきか、なさざるべきかの全てに関して私の命令に従って貰いたい」。
こうした事を愚か者は思い計るから彼らの欲望と高慢は増さるのだ。
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20日 |
75 |
一つは利養への道 一つは涅槃への道 このことわりをさとりて 覚者の弟子たる比丘は 利養をよろこばず 世間よりの遠離に つとめはげむべし
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一つは財産作り、一つは精神的悟り、仏の弟子である修行者はこの事を知悉して利を求めることなく孤高に務めなくてはならぬ。
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21日 |
第六品
賢哲
76 |
財宝の伏蔵を つぐる人のごとく おのが過をゆびさし 過失を教えさとすところの 智あるひとに遇わば かかる賢者に事うべし かかる人につかえなば よきことありて あしきことなし
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何を避けるかを教えてくれたり、過ちを戒めてくれる智者、もしこう言う人に出会ったら、儲けを教えてくれる人のように側近くに仕えなさい。かかる人の側近くに身を置くことは勝れて善い事で悪いことではない。
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22日 |
77 |
いましめよ 教えさとせ なすべからざるを 遠くさけよ かかるひとは あしきものには 憎まるるとも 善き人には 愛せらるべし
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教えなさい。戒めなさい。行ってはならぬ事から遠ざけなさい。こうした人は善人には好かれるが悪人には歓迎されない。
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23日 |
78 |
あしき友と 交わるなかれ いやしき人をも 侶とせざれ こころ清き友と 交わるべし 上士を侶とせよ
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悪友と交際しない、下賤の人間とも交際しない。善い友と交際し、清潔な人間と交際することだ。
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24日 |
79 |
真理の水を 飲むものは 清らなる意もて こころよく眠る かかる賢者は 聖の説ける法のなかに つねにこころたのしむ
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真理の水を飲んだ者は、澄んだ心で安眠できる。このような賢い人は聖人の説いた真理を抱いて心を楽しんてでいるのだ。
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25日 |
80 |
疎水師は げに 水をみちびき 箭匠は 箭をためなおし 木工は 木を曲げととのう 智者は おのれを ととのうるなり
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疎水を作る人は水を導く、矢作りは矢を整える。
水つくりは水を調える。
智慧ある人間は己を調える。
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26日 |
81 |
一かかえほどの磐石 風にゆらぐことなし かくのこどく 心あるものは そしりと ほまれとの中に 心うごくことなし
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巨岩が風に揺らぐことがないように、賢い人々は、謗りと名誉との間に心を動かされることはない。
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27日 |
82 |
底深き淵の 澄みて 静かなるごとく 心あるものは 道をききて こころ 安泰なり
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底深い淵は清らかに澄んで濁らない。賢い人は同様に真理を得ているから自分の心も澄んで静かである。
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28日 |
83 |
心ある人は いかなるところにも 著することなし かかる人はこの欲 かの欲にほだされず 幸福にあうも はた 苦しみにあうも 心ある人は その思いうかぶことなく その思い沈むことなし
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善良な人はあらゆる欲を棄てる。
だからあらゆる欲望に惑わない、時に愉悦し、時に苦痛を覚える。
然し賢い人はこの為に昂揚も沈静もしない。
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29日 |
84 |
おのがため はた他人のためにも 子をも 財をも 領土をも願わざれ 不法によりて おのが繁栄を願わざれ かの人こそ 戒あるもの 賢者 法にそえるものなり
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自分の為にも他人の為に、子も財産も領土も願ってはならぬ。不法を以て自分の繁栄を願ってはならぬ。このような人こそ道義有る人、智慧ある人、そして正義のある人である。
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30日 |
85 |
数多き人々のうち 彼岸に達するは まこと かず少なし 余の人はただ この岸の上に 右に左に 彷徨うなり
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多くの人々の中のほんの少ない人だけが精神的自由の彼岸に達するのみ。あまたの人々は生死止まざる悩みに満つこの岸の上を徒に彷徨う。
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31日 |
86 |
善く説かれたる法をききて 身はその法にしたがう かかる人々こそ 越えがたき 死の境域をこえて 彼の岸に到らん
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正しく説き示された真理を聞いて、その真理を誠実に実践する人々のみ死生観を確立して彼岸に到達する。
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