【朝日の大罪】

報道機関としての体をなしていない 

国会で早急に対応を 

政治ジャーナリスト細川珠生氏   2014.08.20

 「ジャーナリストという職業で、一番大切だと思うことは何ですか?」と時々聞かれる。私は「人として信頼されるかどうかです」と答えている。「この人の言うことなら本当だろう」という前提がなければ、どんなことを発信しても、無駄であるからだ。ましてや、まったく信用に値しない虚偽の内容を発信することは罪となる。

 それらを考えると、朝日新聞がこの32年間行ってきた慰安婦報道は、国家に対して、また日本人に対して、「大罪」以外の何物でもない。

 朝日は先日、慰安婦報道に対する見解と、これまでの虚偽の証言に基づく記事の取り消しを掲載したが、「大罪」であるにも関わらず、報道機関としての体をなしていない対応に、怒りが止まらない。

 朝日が吉田清治氏の記事を最初に掲載したのは1982年だが、10年後には、吉田氏の証言の信憑(しんぴょう)性が疑われていた。メディアでも検証作業が活発化し、現代史家の秦郁彦氏は92年に韓国・済州島で現地調査を行い、「吉田証言は虚偽」と確認し、発表している。

 先日の検証記事で、朝日は「(97年3月の特集記事のため、吉田氏に電話で真偽を聞いたが)虚偽だという確証がなかったため、『真偽は確認できない』と表記した。その後、朝日新聞は吉田氏を取り上げていない」と逃げた。

 その時点で、最初の記事掲載から15年が経過している。吉田氏を取り上げなくなってから現在まで17年。この間に、どれだけ日本が世界の恥さらしとなり、日本人の名誉と尊厳が傷つけられたかを考えれば、「取り上げていない」で済まされる問題ではない。

 最初の掲載時に、吉田氏の意図や、証言が信頼できるかを判断する能力もなかったようだ。百歩譲って、誰にでも過ちはあるとしても、その後の対応がどれだけ重要かは、さまざまな企業の不祥事などを報じてきた報道機関であれば、自明の理ではないだ
宮沢喜一首相が92年の日韓首脳会談で謝罪し、翌年には「河野洋平官房長官談話」が発表された。95年には「女性のためのアジア平和国民基金」が設立され、5億円近い日本国民からの寄付が償い金として元慰安婦という女性へ支給された。

 97年からは中学校の社会科系の教科書に「慰安婦」が掲載され、最近では、日韓とは関係のない第三国で慰安婦像や碑が設置されている。それらを含めた日韓関係の悪化など、すべてこの朝日の報道が端を発しているのだ。もはや一企業の「記事取り消し」で済まされる問題ではない。

 朝日の大誤報が、日本外交にまで影響を及ぼしたことからも、国会での早急な対応を望みたい。

 ■細川珠生(ほそかわ・たまお) 政治ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。聖心女子大学卒業後、米ペパーダイン大学政治学部に留学。帰国後、国政や地方行政などを取材。政治評論家の細川隆一郎氏は父、元朝日新聞編集局長で、衆院議員を経て、政治評論家に転じた細川隆元氏は大叔父。熊本藩主・細川忠興の末裔。