河井の「地下百丈の心」

死を賭けた生き方、私利私欲、毀誉褒貶を気にせず、人間の大義、天の理想に生き、それを社会に顕現することを使命とする男性的気概ある心。いかにも陽明学的な生き方である。

河井は常日頃、

「人間の浮ついた心は頼むに足りない。棺中に入れられて、蓋をされ、釘を打たれ、土中に埋められて、しかる後の心でなければ、真の役に立たないものだ」と。これを「地下百丈の心」と言い、死を賭した心によって物事にあたるという気迫を常に示したという。

安岡先生は、幕末維新の原動力となったのが、陽明学の思想であると確信しておられた。先生の陽明学十講では「政治行動と道徳的行動が一であるという志操」により幕末の維新が成立したと指摘されている。