日本の心の古典 8月「おくのほそ道」旅程から

平成18年8月

 1日 江戸発
327

行く春や鳥啼(とりな)(うお)の目は涙

草の戸も住み替はる代ぞ雛の家
 2日 日光 
330日―41
あらたふと青葉若葉の日の光 しばらくは滝に(こも)るや()の初め
 3日 黒羽 
43日―416
夏山に足駄(あしだ)(おが)首途(かどで)かな 啄木(きつつき)(いほ)はやぶらず夏木立(なつこだち)
 4日 白河
420

野を横に馬()きむけよほととぎす

田一枚植えて立ち去る柳かな
 5日 須賀川 
422日―28

風流の初めやおくの田植うた

世の人の見付けぬ花や(のき)(くり)
 6日 飯塚
52
早苗(さなえ)とる手もとや昔しのぶ() (おひ)太刀(たち)五月(さつき)にかざれ紙幟(かみのぼり)
 7日 岩沼・仙台・松島54日―7日、9

笠島はいづこ五月(さつき)のぬかり道

桜より松は二木(ふたき)三月越(みつきご)

あやめ草足に結ばん草鞋(わらじ)()
 8日 一関・平泉
512日―13
夏草や(つわもの)どもが夢の跡 五月雨(さみだれ)の降りのこしてや光堂(ひかりどう)
 9日 尿前(しとまえ)の関
514日―17
蚤虱(のみしらみ)馬の尿(ばり)する枕もと 関の調べがきつくて、その上大雨、国境近くの家に泊まる。
10日 尾花沢 5月17日―26日

涼しさをわが宿にしてねまるなり
()()でよ飼屋(かひや)(した)のひきの声

まゆはきを(おもかげ)にして紅粉(べに)の花
11日 立石寺 5月27日 (しづ)かさや岩にしみいる蝉の声 慈覚大師の開基、殊に清閑の地。
12日 最上川
5月27日―6月3日
五月雨(さみだれ)をあつめて早し最上川(もがみがわ) ありがたや雪をかをらす南谷
13日 出羽三山
6月3日―9日

涼しさやほの三日月(みかづき)羽黒山(はぐろさん)

雲の峰幾つ崩れて月の山

語られぬ湯殿(ゆどの)にぬらす(たもと)かな
14日 酒田 
6月13日―24日
あつみ山や吹浦(ふくうら)かけて夕涼み 暑き日を海に入れたり最上川
15日 象潟(きさかた) 
6月16日
象潟や雨に西施(せいし)がねぶの花 汐越(しほごし)鶴脛(つるはぎ)ぬれて海涼し
16日 越後路(えちごじ)
6月25日―7月12日
文月(ふみづき)六日(むいか)も常の夜には似ず 荒海(あらうみ)や佐渡によこたふ天の河(あま かわ)
17日 市振(いちぶり) 
7月12日
一家(ひとつや)に遊女もねたり萩と月 親知らずの難所、北国一。
18日 .越中路(えっちゅうじ) 7月13−15日 早稲(わせ)()や分け入る右は有礎海(ありそうみ) 是より五里いそ伝ひしてむかふの山陰にいり・・・。
19日 金沢
7月15日―23日
塚も動けわが泣く声は秋の風
秋涼し()(ごと)にむけや瓜茄子(うりなすび)

あかあかと日はつれなくも秋の風

しほらしき名や小松吹く萩薄(はぎすすき)

20日 多田神社
7月25日
むざんなや(かぶと)の下のきりぎりす 石山の石より白し秋の風
21日 山中
7月27日―8月5日
山中や菊はたおらぬ湯の匂ひ 今日よりや書付(かきつけ)消さん笠の露
22日 .大聖寺(だいしょうじ) 8月4日―6日 ()いて出でばや寺に散る柳  終宵(よもすがら)秋風聞やうらの山
23日 吉崎 
8月7日
越前の境、吉崎の入江を舟に棹して汐越えの松を尋ぬ。 終宵嵐に波をはこばせて 月をたれたる汐越の松(西行)
24日 永平寺 
8月7日
物書いて(あふぎ)引きさく余波(なごり)かな 五十丁山に入て永平寺を礼す。道元禅師の御寺也。
25日 敦賀 
8月14日―15日
月清し遊行(ゆぎょう)のもてる砂の上 名月や北国(ほつこく)日和(びより)定めなき
26日 (いろ)の浜 
8月16日
寂しさや須磨にかちたる浜の秋 浪の間や小貝にまじる萩の塵
27日 大垣 
8月末日―9月5日
旅の物うさもいまだやまざるに、長月六日なれば、伊勢の遷宮をがまんと、又舟のりて・・として句が続く。 (はまぐり)のふたみにわかれ行く秋ぞ
28日 芭蕉、春の句

山路(やまじ)来てなにやらゆかしすみれ草

雲雀(ひばり)より上にやすらふ峠かな
29日 芭蕉、夏の句 古池や(かはづ)飛びこむ水の音

五月雨(さみだれ)の空吹き落とせ大井川

若葉して御目(おんめ)雫拭(しずくぬぐ)はばや (唐招提寺の艦真和上の目)

30日

芭蕉・秋の句

秋深き隣は何をする人ぞ

名月や池をめぐりて夜もすがら

この道や行く人なしに秋の暮
31日 芭蕉・冬の句 旅人と我が名呼ばれん初時雨(はつしぐれ)

初時雨猿も小蓑(こみの)をほしげなり

明けぼのや白魚(しらうお)しろきこと一寸(いっすん)

日本の心の古典はこれにて完了。ご閲覧ありがとうございました。