日本の自然は優しいのに

平成8年4月18日 日本海新聞散歩道掲載

例年より一ヵ月以上遅れて水仙の花がやっと咲いた。今年はもう咲かないのではと思っていたのでとりわけ嬉しい。これは各地で見られる現象でどおやら昨年の異常日照りが原因と思われる。ところで欧米では、日本食は[健康食]として通っている。例えば牛蒡は大変健康によいが世界で食品としているのは日本だけらしい。中国が原産だが中国では早くからこんな木のようなものは食べれないとしたらしい。それを日本が改良を加えて今日のものに仕上げたと聞いた。改良は日本のお手のものだ。米国では蜜柑は[テレビオレンジ]と云われるらしいが本当に美味しい。林檎もそうだ。鳥取の20世紀梨はジューシーと云われ輸出も年々増加している。他国の食べ物と比較しても日本食の美は芸術的でさえある。和菓子などフランスでもてはやされている。繊細な感性が漂っているからであろうか。動物では日本猿が冬の寒い時に露天風呂で暖まり目を細めている姿には誰でも親近感を覚える。柴犬と云われる日本犬も小じんまりと利発でかわいい。日本の動植物が優しいのは日本の自然風土が優しいからである。温帯で梅雨のある日本ならではのものであろう。人間も所詮は風土の産物である。熱帯地域の動植物は原色で気性も日本産と違う。欧州は日本より格段に寒い。古代史時代、日本という島はまさにグリーンランドとして緑の広葉樹林に覆われていたと云われる。想像するだけでも素晴らしい島々であったと思われる。

その日本、今は多くの山は乱伐され河川の水は枯れている。海岸線も河川の堤防もコンクリートで固められている。鳥取砂丘が縮小するのは至極当然なのである。河川から自然に運びだされる土砂が河川とか海岸の堤防で遮断されている。それは河川の上流から流れてきた有機物を媒体とした生態系循環が遮断される事となる。有機物と河川とか海岸の土砂との交流が無くなり微生物の微妙な動きを妨げ水の浄化作用が無くなっている。我々の飲料水や生鮮食料品に死活的打撃を与えている。近海魚激減の原因でもあろう。野菜はハウス生育である。エネルギーを使って育てながら昔のような栄養分は無い。このような事が続けば自然の産物の一つである人間も長い間には本質的異変が生ずるのは時間の問題と思われる。なぜ、旬の自然ものを食べないのか。その努力を人間はなぜ放棄したのか。アトピーの子供が増えるのは道理と云うものである。


前述のように世界でも恵まれた自然環境に居住しているのに現代日本人は見かけの繁栄の陰で大切なものを失ってしまった。宝とも云える水田風景も消え去る日が来るのであろうか。ここにもお金万能の現実が垣間見れる。みんなが欲張りとなったのであろうか。人間の幸せとはこんなものでは無い筈だ。工場地帯の空気に発癌物質が欧米諸国の1200倍もあるとの報道を最近見た。我々はこの辺で[成長至上主義]と決別した考えを持たなくてはならないと思う。さもないと後世の史家に、20世紀に日本と云うコンクリート文化の國があったと云われかねない。                      完