現代宰相論―大将の器とは その三

  平和22年9月

 1日 将の器            ()叢子(ぞうし)孔子の孫の子思(しし)(えい)の国に仕えていた時、ある日、(こう)(へん)という人物について君主(くんしゅ)に進言した。 
 2日

「あの男は戦車五百(じょう)を出す土地の将軍にするだけの器量がございます」、すると、君主は、「わしもそれは分かっておる。だが、あの男は以前役人であった時、人民から一人二つずつの鶏卵を出させて食ったことがある。だから用いないのだ。

 3日

そこで子思は言った。「それはお考え直されるべきです。一体、聖人が人を役人にする時の姿とは、腕のいい大工が木を用いるようなものでございます。そのいい所を取って、悪い所を捨てるのであります。

 4日

しかも、柳とか梓とかの立派な木であっても、幾かかえもとなると数尺の腐った所があるものですが棄てません。それはなぜか?腐った所があっても、それがごく僅かである事を知っているからです。今我が君には、この戦国の世にあって国を護る将軍を選ぶにあたって、僅かに二つの鶏卵を取ったからと云って、その立派な将軍を棄てて用いようとはされません。 

 5日

こんなことを隣国の人々の耳に入れたら、それこそ大変でございます」。それを聞いた衛の王様は再拝して言った。「謹んでそなたの教えに従えう」。

 6日

社会の用に資する為に人々の技を用いる時、評価すべきはその能力なのか、それともその人の徳なのか。 

 7日 狭量な現代

例えば、政治家を評価する時、その政治家の政策の実績を見るべきなのか、清廉潔白であることを重視するべきなのかということである。現代は、これに就いては見えにくい点が多々あるが概して狭量のように思える。

 8日 トップが目指す「九徳」 人の上に立つ人間は、余り細部に拘ってはいけない。何から何まで指示は良くない。下の人間の裁量の余地を残す事が大切であろう。そして、任せる、そして任せたら口出ししない精神が不可欠のように思う。 
 9日

では、上の者は何をするのかであるが、仕事とか社会とか、時代の流れに大きな影響を及ぼす因子を自らの見識と経験で察知し対抗策を取ることであろうか。勿論相談あれば現在の懸案も決断する。 

10日 宰相の任務

国家では、些細なことは各省大臣にさせ国家・民族的な未来に思いを常に馳せつつ大きな戦略を企図することであろう。

11日

トップの「九徳」

一、「(かん)にして(りつ)」。寛大だが、しまりがある。

二、「柔にして(りつ)」。柔和だが事が処理できる。

三、「(げん)にして(きょう)」。真面目だが丁寧で慳貪(けんどん)でない。

12日

四、「乱にして敬」。事を治める能力があるが、慎み深い。(事を治める能力が無いのに居丈高)

五、「(じょう)にして()」。おとなしいが内が強い。

六、「(ちょく)にして温」。正直・率直だが、温和。 

13日

七、「(かん)にして(れん)」。大まかだがしっかりしている。

八、「(ごう)にして(そく)」。剛健だが内も充実。

九、「(きょう)にして()」。(きょう)(ゆう)だが、(ただ)しい。

14日

子帳仁を孔子に問う。孔子曰く、能く五つの者を天下に行うを仁と為すと。これを請い問う。

15日

曰く、「(きょう)(かん)(しん)(びん)(けい)」なり。恭なれば則ち(あなど)られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人に任じ、敏なれば則ち功あり、恵なれば則ち以て人を使うに足れりと。

16日 「恭」こそ凡て

この五つの中で現代リーダーが最も心すべきは、何よりも、何よりも「恭」ではあるまいか。

17日 「恭」が「畏」を産み、そして「威」を

恭というは、力のある上の者が、下の者に対して謹んでいる姿が周りにいる者にもありありと見える事であり、それ故に下の者にとって上の人が畏ろしい、畏怖すべき人物となるのである。この「恭」が「畏」を産み、そして「威」を生じさせるという構造になるのである。

18日

「寛」だけなら嘗められる。嘗められたら侮られる。侮られたら人を動かせない。

19日

だから上の立つ者は「恭」という眼に見えない「徳」により周りの人に、「あの人にはかなわない」と服従させるものとなるのである。

20日 自滅の十過(じゅっか

トップ「自滅の十過(じゅっか)

韓非子からである。十過とは、

一に曰く、小忠を行うは則ち大忠の賊なり。

二に曰く、小利を顧みるは則ち大利の(ざん)なり。

21日 三に曰く、行いを僻にして自ら用い、諸侯に無礼なる  は則ち身を亡ぼすの至りなり。
四に曰く、()を聴くに努めず、而して五音(ごいん)を好むは、則ち身を(くる)しむるの事なり。
22日 五に曰く、貧愎(たんぷく)にして利を喜ぶは、則ち国を滅ぼし身を殺すの(もと)なり。
六に曰く、(じょ)(がく)(ふけ)り、国政を顧みざるは、則ち国を亡ぼすの禍なり。 
23日 七に曰く、内を離れ遠く遊び、而して(かん)(ゆるが)せにするは、則ち身を(あやう)くの道なり。
八に曰く、過ちて忠臣に聴かず、而して独りその意を行うは、則ち高名を滅ぼし、人の笑いと()るの始めなり。
24日 九に曰く、内、力を(はか)らず、外、諸侯を(たの)むは、則ち国を削るの(うれえ)なり。
十に曰く、国、(ちいさ)くして礼なく、(かん)(しん)を用いざるは、則ち世を絶つの勢いなり。 
25日 「臣下の罰を恐るべし」 黒田如水(黒田孝高)、戦国時代の武将の言葉、如水はその才能能力で豊臣秀吉に恐れられた人物。如水の水の哲学は有名、このホームページでも引用した
26日 「神の罰より主君の罰おそるべし。主君の罰より臣下の罰恐るべし。其故は神の罰は祈りてもまぬるべし。主君の罰は詫言して謝すべし、只臣下(しんか)百姓(ひゃくせい)にうとまれては必ず国家を失う故祈ても詫言しても其罰はまぬかれがたし、故に神の罰主君の罰よりも臣下万民の罰尤もおそるべし」。 
27日 君子に三畏 君子に三畏(さんい)あり孔子曰く、君子に三畏あり。
天命を畏れ、大人(たいじん)を畏れ、
聖人の言を畏る。小人(しょうじん)は天命を知らずして畏れざるなり。大人(たいじん)に狎れ、聖人の言を(あなど)る。(論語) 
28日 ()()  大学から引用する。
(いにしえ)明徳(めいとく)を天下に明らかにせ
んと欲せし者は、まずその国を治めたり。
29日 国修身斉家治国平天下 その国を治めんと欲せし者は、まずその家を(ととの)えたり。その家を斉えんと欲せし者は、まずその身を修めたり。その身を修めんと欲せし者は、まずその心を正しくせり。その心を正しくせんと欲せし者は、まずその意を誠にせり。その意を誠にせんと欲せし者は、まずその知を致せり。知を致すは物を(ただ)すに()りき。
30日 物格(ものただ)してのち知至る。知至りてのち()(まこと)なり。()(まこと)にしてのち心正し。心正しくしてのち身修まる。身修まりてのち家(ととの)う。(いえ)(ととの)いてのち国治まる。国治まりてのち天下(たいら)かなり。