これぞ「歴史の真実

昭和21年の某日。戦勝国・極東軍事裁判所の検事が某将軍Aを訪ねた。

Aはいきなり〔自分が参謀総長なら敗戦していなかった、その時君達は我々の前でペコペコしていたろう〕。

検事は戦犯の中で暗に第一級に値する戦犯を模索していた。

Aはすかさず〔トルーマン〕と答えた。

検事〔米国大統領の事か〕  

A〔そうだ〕何故か。

Aはトルーマンがまいたビラの〔もし日本人が軍人と共に協力するなら老人子供、婦女子を問わず全部爆殺する〕を指摘し〔これは何だ、国際法では、非戦闘員は爆撃するなと規定がある〕   検事〔あれは脅しだ〕

A〔米国はこのビラの通りB29が軍需工場でない所、戦闘員以外の民衆すべてを爆撃したではないか。更に広島長崎に原子爆弾を投下した。一体どおしたことか。トルーマンの行為は戦犯第一級だ。考えて見ると一国の大統領ともあろう者がこんな野蛮行為を敢えてし而もテントして恥じない。こんな者を相手に戦争した我々が恥ずかしくてしようがない。賠償は払うが我々はその倍の賠償を逆に要求したい〕。

続けて言う。日本の罪を何処まで遡るのか。検事〔日清、日露までさかのぼりたい〕。
どおいうわけか。〔満州事変の根源はそこまであるからだ〕。

A〔よしわかった、そんなにさかのぼりたいなら、ペリーを呼んでこい〕。

検事、エッ、ペリー。

A〔自国のペリーを知らぬのか〕どおいうわけか。

A〔我々は徳川時代から鎖国で台湾も満州も不要であった、ペリーがやってきて大砲でおどかして門戸開放を迫り自ら侵略のお手本を示した。日本も何とか生きる方法を考えないといけないから米国を大先生として泥棒の侵略を習い覚えたのだ。その元凶はペリーだ。彼を戦犯としてはどおだ〕。


ある時Aは検事に〔東京裁判を見るに、東条を初めとして何れも権力主義者で権力に媚び時の勢力の大なる方について甘い夢を見ていたものばかりである。莫大な経費をかけて世界のお歴々が国際裁判にかける値打ちがあるものは一人もいないではないか〕。

検事〔全く同感です、ジェネラルのいう通りです〕。

A〔ホウ、君もそう思うか、米国は戦争に勝って今は世界の大国である。こうした価値の無いものを捕まえて裁判したとあっては後世の笑い者になる。米国の恥だ、裁判をやめて早速帰ったほうがよろしい〕。


ある時ソ連の参謀将校がAの病床にやってきた。そしてAの天皇に対する信仰を嘲笑した。ムットして怒ったAは〔自分ではスターリンを神様のように信仰しているくせに、他人の信仰を嘲笑うような下司な馬鹿野郎とは話をしたくない、即刻帰れ!!〕と激怒大喝した。

Aは厳然たる態度でにらみ、口をきかない。参謀将校は完全に威圧された。さんざんに泣きを入れてやっと話をしてもらった。
Aはにわかに笑顔をつくった。〔ソ連は芸術を尊ぶか〕。
将校検事〔ソ連は芸術を尊ぶ国である〕。
A〔芸術は信仰だ。そうではないというか。第一、君達はスターリンと言えば絶対ではないか。スターリンの言葉には一切反駁も許されないではないか。絶対なものは信仰だ。どおだ、分かったか。自分自身が信仰を持っていながら他人の信仰を笑うような馬鹿には用が無い、もう帰れ〕、厳然と言い放つと、それっきり口をきかない。ソ連検事はほうほうのていで帰った。


そして翌日は、極めて丁寧でにこやかな態度の参謀が訪れた。
昭和21年東北の酒田で極東軍事裁判の特別法廷での事。Aのみの出張尋問である。

A〔満州は自分にすべての責任がある。なぜ自分を戦犯にしないのか〕。後で検事がAに対してつまらぬ尋問してすまなかったと言う。また、多くの外国記者団が言う。〔日本はどおしてこのような優れたAの意見を採用しなかったのか〕。


Aとは石原莞爾将軍のことである。これは、秘録石原莞爾、著者横山臣平〔芙蓉書房出版〕からの引用である。

将軍とは石原莞爾将軍の事とは前回明らかにした。将軍の悠揚迫らざる威容、正々堂々として自ら戦犯なりと言明、捨身で危地に突入してくる信念の強固さ、勇猛無比の豪快なる態度、真実さは、裁く人、裁かれる人、敵味方、民族の別を越えて人の真心ををうち思わず襟を正さずにはおかなかった。と著者は続ける。

朝日新聞記者が感動して転ぶように石原のもとに走りより涙をいっぱいたたえて〔東京裁判以来、今までの指導者だった人たちが戦犯として裁かれていますが、その態度の卑屈さには胸の潰れるような恥ずかしい思いをしてきました。この二日間、将軍の言動を見て私は日本人として、初めて晴れ晴れとしました。こんな嬉しい事はありません〕と感動した。


これは日本人のみではなかった。UP、APの記者が将軍のご意見を拝聴したいといってきた。外国新聞記者も判検事も日本にきて、日本人は権力者に対しては心にも無いお世辞をつかって嘘をいうがこのジェネラルだけは全くウソなしで底知れぬ大人物だと言って好意を抱いていた。

外人記者が質問する。トルーマン大統領をどお思うかと。

石原将軍〔トルーマンは政治家の落第生だ〕どおしてか。将軍〔政治家と自称する以上、目先が利かなくてはならない。明日、明後日を洞察してテキパキ手を打つのが政治家というものだろう。・・中略・・早い話が戦争の土壇場になって、させなくてもよいのにソ連に参戦させて鳶に油揚げをさらわれた図など世界史的な大笑話となって恐らく後世に残るであろう。おかげでアジア諸国こそいい迷惑だ・・ルーズベルトにしても似たりよったりだ。
・・B29はドイツも完全に破壊した、全世界至る所で民族的国家的なトラブルを起こしている。こんな目先のきかない政治家は見たことがない。政略方面は落第生だ〕 。

記者連中はジェネラルの言う通りと言い大笑いした。
また、〔ジェネラルはマッカーサー軍政は大失敗であると言うが如何なる点でしようかと問う。

石原将軍曰く〔その第一は敗戦国の精神を侮辱していることである。・・腕力の強い奴が腕力の弱い者より精神がすぐれているなどと言う理屈はない。日本には日本のすぐれた精神がある。マッカーサーは敗戦国の精神を侮辱し民主主義を強要しているではないか。勝った国が負けた国を奴隷扱いするということは大きい誤りである。

・・プロシアの宰相ビスマルクは参謀総長のモロトケ将軍にフランスに最敬礼を要求しようとした。モロトケは〔勝者は敗者の身になって考えてやるべきで思いやりが大切であります。降伏した上に更に最敬礼を要求して敗者に侮辱を与える事は道をわきまえたもののする事ではありません〕と建言した。

・・近年聞く処によると国民は寒さに飢えている、死人も出ている。列車では子供が押し潰されているのに進駐軍だけがガラ空きの汽車だ。

どおだ、これが君の言う民主主義なんだ。日本軍が占領地でとった態度もこれほど酷いものではなかった。・・満州は結果的に遂に軍人と官僚とによって誤られ、今日侵略者としてレッテルを貼られている。

失敗の原因は中国人の嫌う中国の好漢を使ったことである。彼らは軍を背景にして私利私欲をはかった。中国から見れば全く笑止の沙汰である。日本に対する不信軽侮の原因もここにあった。マッカーサーのやっている事も日本軍の失政と寸分変わらない。・・と滔々と批判し声を大にして、石原が言っているとマッカーサーに伝えるがよろしい。記者たちは石原の思い切った発言に驚嘆していた。


長々と引用した。読者諸氏はいかが思われましようか。私は感動を覚えた。軍事のみならず文化、歴史、広く世界史に通じその胆識は言語に絶するものがある。指摘の如く私利私欲の国家官僚が敗戦の原因を作った。今回の日本存亡の危機も日本海新聞吉岡社長指摘の如く同様だ。歴史の本質を見抜く要のある政治家、官僚は以て師表とすべきであろう。近年の亡国的様相に呆れ果てて本文を敢えてものした。
            徳永日本学研究所 代表 徳永圀典