泰然自若の中国人―日本人と中国人の器量?
中国人は実に悠々として弾力に富む民族であります。これは歴史にも因るのであります。
易姓革命、侵略、反乱のあの歴史にも因るのでありますが、実に泰然自若としている。悠々迫らない。日本人は非常にあせる、興奮する、疲れる。
日華事変の始め頃、吉川英治氏が新聞社から派遣されまして、帰って来て沁々と話していたことがありますが、天津に往ってある日、感に打たれたことは、日本の兵隊が真赤になって怒号して、そうして鞭を振って乱打しながら苦力を使って車に荷物を積んで曳かせている。
日本の労働者ならあれほどやられたら、尻をまくってサア殺せとか何とかいう始末になって、言うことを聞かないところだが、どうするかと思って見ていると、雲突くような大きな男が、罵られて打たれても、何かニコニコ笑いながら、まあ怒るなというような恰好をして、言われるままに、とにかく一生懸命になって車を曳っ張っている。
この有様を見て非常に恐ろしくなったということでした。これは面白いことだと思います。
話の質は少し変わってきますが、私が始めて(大正)満州を旅行致しました時にもそれを痛感しました。
大連から旅順に立派な道路が出来ておりまして、その傍らに百姓家がある。ちょうど真夏でありましたが、陽のあたる所にいると目が眩むほど暑いが木陰はひやりとするほど涼しい。
湿気がありませんから、冷熱の区別が非常にはっきりしている。百姓が暑いものですから、アカシアなどの木陰で昼寝している。
その辺に豚などがブウブウいって歩いている。私どもの乗った自動車が彼らの昼寝をしている枕元を疾走する。日本人ならとてもそんな道端にひっくり返って悠々と寝ているというようなことはない。彼らは平然として、ものうさそうに車を見返りながらまた乗っているかというような顔をしている。
それから撫順に参りますと、苦役が西瓜を食っている。処がハエが一杯で、西瓜の赤いのが見えない、手を動かす毎にハエがぱっと散って赤い所が見える。
それを平気で食っている。案内しました人が、あの通り衛生思想も何もない、洵に憐れむべき民族でというような説明をしておりましたが、正にその通りでありますが、私は心中秘かに彼らのバイタリティ活力に大きな恐怖を覚えたことがある。
安岡正篤先生の言葉